側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません
 紅茶の香りが立ちのぼるカップを口もとに運ぶ。上等な茶葉のはずなのに、イリアの舌には苦く感じられた。

 沈黙が長く続いたのち、イリアは思い切って言葉を選ぶように口を開いた。

「……あなたは陛下のそばでずっと仕えているのでしょう?」
「はい」
「では……、教えてもらえるかしら。陛下はどのような方なの?」

 エルザは珍しく、少しだけ表情を曇らせた。

「……フェイラン国王陛下は、もともと王位に就くはずではありませんでした。王太子の弟としてのびのびとお育ちになり、書物を好まれ、剣よりも筆をとる方でした」

 意地悪で何も教えてくれないかもしれないと覚悟していたが、意外にもエルザはすらすらと答えた。

「ウルリック王太子殿下のご不幸は存じています」

 あのときはとてつもない騒ぎだった。

 エストレア王国の若き獅子と言われた、第一王子ウルリック・アーデン。有能で、民にも慕われていた。その彼が乗馬の事故で亡くなったのは、記憶に新しい。

「ウルリック殿下亡きあと、国王陛下ならびに王妃陛下が相次いでみまかられ、王位は突然、フェイラン殿下のものに。即位ののち、陛下はそれまでのご性分を捨て、誰にも心を開かれなくなりました」

 その言葉には、どこか哀れみが含まれていた。

 イリアは胸の奥が痛むのを感じた。

 そうだったのか。彼が傷ついているように見えたのは、近しい家族を短い間に失ったからなのか。

「リゼット王妃陛下とのご成婚で、陛下はますます……」

 そこでエルザは、言葉を切った。代わりにティーポットを持ち上げ、表情を戻す。

「いえ、余計なことを申し上げました」

 その声はどこまでも平坦で、いつものように冷ややかだった。まるで、何も聞かれたくないと拒絶するように。

 彼女も同じなのだろうか。フェイランのように、何かに傷つき、心を閉ざしている……。

 エルザは何を言いかけたのだろう。

 フェイランはリゼットとの結婚で、ますます……自分の殼に閉じこもってしまったのか。だとしたら、ふたりの間にはいったい、何があったのだろうか。
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