側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません
「聞こう」
「……私は、陛下の幸せを願っております」

 イリアは顔をあげ、フェイランを見つめた。まぶしい朝の光を浴びる彼は穏やかな目をしていた。

 彼は変わった。どうしてかはわからない。しかし、だからこそ、イリアは言わなければいけなかった。

「陛下は、人を愛することができるお優しいお方です。ですから……、リゼット様と今一度お話になられて、愛する方と結婚してください」
「いま……何を言った?」

 フェイランは衝撃を受けた顔をしていた。

「……はい。出過ぎた真似をしていることはわかっています。どのような処分も甘んじて受け入れます。ですが、私は陛下にどうしてもお幸せになっていただきたいのです」
「だから、あなたはどうするのだ」
「……お許しいただけるなら、父のもとへ帰してください。私は……愛する方を思い、ひっそりと生きてまいります」
「愛する男とは誰なのだっ! 言え、イリア!」

 フェイランは眉間にしわを寄せ、その整った顔を嫉妬と怒りで歪ませた。

 その姿はまるで、手に入らないものを力ずくで奪おうとする獣のようだった。彼がこんなふうに感情を見せるとは思ってもみなかった。

「それは……申し上げられません」
「なぜだ……」

 フェイランはうなり声をあげると、あっという間にイリアを抱き寄せ、強く強く抱きすくめると唇を重ねた。

「離縁する気か? そんなことを言うな、イリア」
「離縁も何も、私たちは……」
「私の心をこれほど乱しておいて、あなたは何もないというのかっ」

 心臓が跳ね、体中に血が一気に駆け巡った。イリアは目を見開いたまま、息を忘れた。

 そのとき、背後でガサガサと木の葉が揺れ、どこからか、かすかな花の香りがした。これは、リゼットが身につけていた香り──

「リゼット……、なぜここに」

 イリアはパッとフェイランから離れると、身をかがめた。

 ちらりと見えたリゼットの瞳には怒りにも似た色が浮かんでいた。たとえ、愛のない結婚と言えども、側妃と我が夫のたわむれを目にしておおらかにはしていられないのだと知った。

「わたくしと離縁したい。そうおっしゃいましたね。急に何を言い出したのかと、様子を見に来たのですよ」

 イリアは我が耳を疑った。

(離縁……ですって?)
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