側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません
「イリア……」

 ぼう然と立ち尽くすイリアの手を、フェイランは優しくなでた。

 彼は少し疲れているように見えたが、その瞳には、これまでにない力強さが宿っていた。

「私は怒っているのだ」
「陛下……」
「請願書を渡して、何日経つと思う。……あれから一度も、寝室に来てくれないじゃないか。今夜こそ、来てくれるだろう?」

 すねるように言うフェイランに、イリアの目に涙が浮かんだ。

「……私を、正妃にしてくださいますか?」

 フェイランはほほえみ、優しくほおに手を添えてくる。

「もちろんだ。誰にも渡したくない。愛する男のことは、忘れてくれないか……」
「それは……難しいです」

 頼りなく眉をさげるフェイランの肩に触れ、イリアは彼の耳もとに唇を寄せる。

「陛下以外、私の心をひとりじめする方はいらっしゃらないのです」
「イリア……!」

 二人は強く抱きしめ合い、その日は冷たい夜気からお互いを守るように深く結ばれた。

 リゼットが王宮を去ったのは、本格的な春が訪れた穏やかな日のことだった。

 フェイランは相変わらず執務に追われ、時折、イリアの部屋を訪れる。その表情に、もう孤独は見当たらない。

「陛下」
「フェイラン、と呼んでほしい」
「……あの、フェイラン……様、今日はこちらでお休みになりますか?」
「あなたが側にいてくれるなら」

 穏やかな笑みが交わると、フェイランは幼子のようにイリアのひざに頭をこすりつけた。

 イリアは彼の髪をそっとなでた。彼が触れるお腹の中に、新しい命が宿っていることを、今夜伝えよう。

 もう、孤独じゃないのだと。
 あなたには愛する家族がいるのだと。

 深い安らぎに包まれながら、イリアはそっと、彼のほおに唇を寄せた。



【完】
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