側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません
「イリア……」

 ぼう然と立ち尽くすイリアの手を、フェイランは優しくなでた。

 彼は少し疲れているように見えたが、その瞳には、これまでにない力強さが宿っていた。

「私は怒っているのだ」
「陛下……」
「請願書を渡して、何日経つと思う。……あれから一度も、寝室に来てくれないじゃないか。今夜こそ、来てくれるだろう?」

 すねるように言うフェイランに、イリアの目に涙が浮かんだ。

「……私を、正妃にしてくださいますか?」

 フェイランはほほえみ、優しくほおに手を添えてくる。

「もちろんだ。誰にも渡したくない。愛する男のことは、忘れてくれないか……」
「それは……難しいです」

 頼りなく眉をさげるフェイランの肩に触れ、イリアは彼の耳もとに唇を寄せる。

「陛下以外、私の心をひとりじめする方はいらっしゃらないのです」
「イリア……!」

 二人は強く抱きしめ合い、その日は冷たい夜気からお互いを守るように深く結ばれた。

 リゼットが王宮を去ったのは、本格的な春が訪れた穏やかな日のことだった。

 フェイランは相変わらず執務に追われ、時折、イリアの部屋を訪れる。その表情に、もう孤独は見当たらない。

「陛下」
「フェイラン、と呼んでほしい」
「……あの、フェイラン……様、今日はこちらでお休みになりますか?」
「あなたが側にいてくれるなら」

 穏やかな笑みが交わると、フェイランは幼子のようにイリアのひざに頭をこすりつけた。

 イリアは彼の髪をそっとなでた。彼が触れるお腹の中に、新しい命が宿っていることを、今夜伝えよう。

 もう、孤独じゃないのだと。
 あなたには愛する家族がいるのだと。

 深い安らぎに包まれながら、イリアはそっと、彼のほおに唇を寄せた。



【完】
< 19 / 19 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:29

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
囚われた弟を救うため、貧民育ちのリーゼは公爵令嬢になりすまし、騎士団長シルヴィオに嫁いだ。 彼女に与えられた任務は、夫を監視すること。 結婚後、新居で待っていたのは、「氷の騎士」と恐れられる無口な夫。 しかし──戦地から帰還した彼は、別人のようにリーゼを溺愛し始めて……!? 「あなたのことを考えない日は一日たりともなかった」 次第にシルヴィオに惹かれていくリーゼ。けれど彼女は知らない。この結婚には、さらなる罠が仕掛けられていることを。 守り守られ真の夫婦を目指す恋愛ファンタジー! ※ヒロインが実家で虐げられるシリアスな展開がありますが、ヒーローによる救済・溺愛へと繋がります。
嘘よりも真実よりも

総文字数/89,348

恋愛(純愛)134ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
株式会社金城マーケティング 専務  金城総司 × 翻訳家 久我みちる あなたがほしくて 嘘をつく……
運命に導かれた転生魔女は、呪われた王太子を救いたい

総文字数/118,871

ファンタジー177ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
大学生の御堂星麗奈(セレナ)は、卒論に没頭するあまり思いもよらぬ事故で命を落としてしまう。 次に目覚めたのは、二千年前に災厄をもたらした魔女イザベラが封印された祠。そこで、冷徹な王太子アレクと出会う。 復活したイザベラではないかと疑われるセレナは王宮へ連れていかれ、彼の監視下に置かれることに。 自身がイザベラである可能性に悩む中、セレナはアレクを苦しめるある呪いに気づく。彼の婚約者に次々と不幸が起きている原因が、イザベラの呪いではないかというのだ。 真相を確かめようと、セレナは王太子の六人目の婚約者の座を受け入れることにするのだが──。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop