側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません
「あなたを呼んだのは、ほかでもありません。陛下から部屋への出入りを禁じられたと聞きましたよ。その意識の低さは問題ですね」

 静かだけれど、厳しさのある声音に、イリアの身体はぞわりと震えた。

「あなたは目的を理解してこちらへ参ったはずです。所詮、何も知らない田舎者とあざ笑われることのないようになさらないといけませんよ」
「……も、申し訳ございません」

 またしても、気を許しそうになっていた自分を後悔した。

 ここに味方は誰ひとりとしていない。王妃も侍女も……夫となる陛下ですら、イリアに同情し、甘やかすことはない。

「イリア、あなたは誤解しているかもしれませんね」

 誤解は何もないはず。世継ぎを欲する王家のために、イリアは尽くすだけ。しかし、早速、陛下に遠ざけられ、リゼットは心配しているのだろう。

「わたくしから、この結婚の条件をお伝えします」
「はい……」

 イリアは深くこうべを垂れた。

 側妃に嫉妬するどころか、後継問題を政治的瑕疵ととらえるリゼットとは立場が違いすぎた。

 リゼットは口を開く前、ほんの一瞬、目を伏せた。まるで、何かを自分に言い聞かせるように。そして、自身の役割を果たすかのように、堂々とした声音で言った。

「あなたは世継ぎを産んだら、子を置いて、速やかに王宮を離れなさい。陛下との離縁が、この結婚の絶対的な条件です」

 イリアは叫び出しそうになるのを、ぐっとこらえた。いっさいの感情を含まない声が、せめてもの救いだった。なぐさみは、かえって残酷だった。

 しかし、イリアは自身の行く末を案じずにはいられなかった。

 優雅な後宮生活など、何ひとつ保証されていない。我が子を取り上げられ、父の待つ屋敷へ帰される。それが、どれほどみじめなものか、想像するのはたやすかった。

 それでも、イリアは唇を噛みしめた。

 与えられた役割を受け入れることはできても、望まれるままに微笑むだけの人生を歩むつもりはなかった。
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