リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
(……いけない、こんな顔をしていたら、エミリを心配させてしまう)
ふう、と息をついて婚約破棄の書面を棚に戻す。代わりに出したのは婚姻届と小さなケースだ。
中にはエミリの小さく細い指に合うピンクサファイアの宝石がはめ込まれた指輪が入っている。明日、目を覚ましたタイミングで手渡そうと、ちょっとしたサプライズを計画していた。朝一で驚く彼女を思い浮かべると、今から楽しみだ。きっと泣いて喜ぶに決まっている。
「愛しいエミリ。あと数時間後にやっとこれを渡せるね」
浮ついた様子のベンジャミンだったが、ふとドアをノックする音でハッとした。
「ベンジャミン坊ちゃま、まだ起きておられますか。至急お伝えしたいことがございます」
声の主は、長年ギルバート家に仕える執事だった。真夜中に来るなんて、よほどのことがない限り珍しい。中に入るように答えると、執事は焦りと絶望を顔ににじませてやってきた。
「夜分に申し訳ございません。王家より緊急連絡が届きました」
政治の中心である王家では、非常事態が起きた場合を想定して通信魔法を使える者を集めた部署が設けられている。今回、ギルバート公爵家に発信された緊急連絡もそのひとつだ。
「こんな夜中に連絡なんて、迷惑もいいところだ。あとで父上にも共有してしっかり抗議しておかないと……それで、何か問題でもあったのか?」
「リ、リシェル……様、が」
「リシェル? 彼女がどうした?」
「――リシェル様が、お亡くなりになりました」
震えた声色で執事が告げた言葉に、ベンジャミンは次第に頬が緩んでいくのを感じた。
(……いけない、こんな顔をしていたら、エミリを心配させてしまう)
ふう、と息をついて婚約破棄の書面を棚に戻す。代わりに出したのは婚姻届と小さなケースだ。
中にはエミリの小さく細い指に合うピンクサファイアの宝石がはめ込まれた指輪が入っている。明日、目を覚ましたタイミングで手渡そうと、ちょっとしたサプライズを計画していた。朝一で驚く彼女を思い浮かべると、今から楽しみだ。きっと泣いて喜ぶに決まっている。
「愛しいエミリ。あと数時間後にやっとこれを渡せるね」
浮ついた様子のベンジャミンだったが、ふとドアをノックする音でハッとした。
「ベンジャミン坊ちゃま、まだ起きておられますか。至急お伝えしたいことがございます」
声の主は、長年ギルバート家に仕える執事だった。真夜中に来るなんて、よほどのことがない限り珍しい。中に入るように答えると、執事は焦りと絶望を顔ににじませてやってきた。
「夜分に申し訳ございません。王家より緊急連絡が届きました」
政治の中心である王家では、非常事態が起きた場合を想定して通信魔法を使える者を集めた部署が設けられている。今回、ギルバート公爵家に発信された緊急連絡もそのひとつだ。
「こんな夜中に連絡なんて、迷惑もいいところだ。あとで父上にも共有してしっかり抗議しておかないと……それで、何か問題でもあったのか?」
「リ、リシェル……様、が」
「リシェル? 彼女がどうした?」
「――リシェル様が、お亡くなりになりました」
震えた声色で執事が告げた言葉に、ベンジャミンは次第に頬が緩んでいくのを感じた。