リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
『可愛い私のエミリ。女の子はね、花のように華やかに静かに微笑んでいればそれでいいのよ』
エミリは母親の顔を覚えていない。その代わりに、物心がつくずっと前から子守唄のように聞かされていた言葉があった。優しい声色で語りかけるそれはおそらく母の声で、これが最期の教えなのだと胸に刻んでいた。
(貴族で在り続ければ、素敵なドレスが着られるし、ハイスペックな旦那様とも出会える。私の欲しいものが全部手に入るのだわ!)
安直な考え方ではあったが、エミリはきらびやかな世界を夢見る度に、大人になるのが楽しみだった。
『初めまして、リシェル・ベッカーと申します』
ある日、エミリに二つ上の姉ができた。亜麻色の髪に翡翠の瞳を持つ、大人しい女の子。自分と比べると地味な容姿だったが、エミリは一瞬で心を奪われた。
十一歳になったばかりにもかかわらず、洗礼されたカーテシー。伏せた睫毛の美しさ。
この子には敵わないだろう――そう直感した。同時に、エミリは彼女のようになりたいと思った。一礼するだけで心を鷲掴みする所作は、まるで魔法だった。
『おねえさま! エミリにも教えてくださいまし!』
それからのエミリは、リシェルのもとに駆け寄る度に教えを請うた。
貴族令嬢としての心得、カーテシー、マナー諸々。家庭教師よりもリシェルの言葉を信じて学んでいった。間違っていたらすぐに指摘し、上手くできたら誰よりも褒めてくれた姉を、エミリは誰よりも慕い、憧れの存在となっていった。
リシェルから学んだことを活かしていけば、素敵なドレスももっと美しく着飾れるし、王族との婚姻も夢じゃない。
従姉という立ち位置でも、いつかは本当の姉妹になりたいと願うほど、エミリはリシェルが大好きだった。
しかし、将来への希望を膨らませていた一方で、エミリは衝撃の事実を知ってしまった。
『あの子は、お前と駆け落ちした子爵令嬢の子だな』
『可愛い私のエミリ。女の子はね、花のように華やかに静かに微笑んでいればそれでいいのよ』
エミリは母親の顔を覚えていない。その代わりに、物心がつくずっと前から子守唄のように聞かされていた言葉があった。優しい声色で語りかけるそれはおそらく母の声で、これが最期の教えなのだと胸に刻んでいた。
(貴族で在り続ければ、素敵なドレスが着られるし、ハイスペックな旦那様とも出会える。私の欲しいものが全部手に入るのだわ!)
安直な考え方ではあったが、エミリはきらびやかな世界を夢見る度に、大人になるのが楽しみだった。
『初めまして、リシェル・ベッカーと申します』
ある日、エミリに二つ上の姉ができた。亜麻色の髪に翡翠の瞳を持つ、大人しい女の子。自分と比べると地味な容姿だったが、エミリは一瞬で心を奪われた。
十一歳になったばかりにもかかわらず、洗礼されたカーテシー。伏せた睫毛の美しさ。
この子には敵わないだろう――そう直感した。同時に、エミリは彼女のようになりたいと思った。一礼するだけで心を鷲掴みする所作は、まるで魔法だった。
『おねえさま! エミリにも教えてくださいまし!』
それからのエミリは、リシェルのもとに駆け寄る度に教えを請うた。
貴族令嬢としての心得、カーテシー、マナー諸々。家庭教師よりもリシェルの言葉を信じて学んでいった。間違っていたらすぐに指摘し、上手くできたら誰よりも褒めてくれた姉を、エミリは誰よりも慕い、憧れの存在となっていった。
リシェルから学んだことを活かしていけば、素敵なドレスももっと美しく着飾れるし、王族との婚姻も夢じゃない。
従姉という立ち位置でも、いつかは本当の姉妹になりたいと願うほど、エミリはリシェルが大好きだった。
しかし、将来への希望を膨らませていた一方で、エミリは衝撃の事実を知ってしまった。
『あの子は、お前と駆け落ちした子爵令嬢の子だな』