リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
都心の中でも隣国側に近い位置にするギルバート領からの出発だが、グランヴィル王国まで馬車で一週間はかかる。
ベンジャミンがいないギルバート邸に居座る必要はない。自宅へ戻ったエミリは、真っ先にリシェルの部屋へ向かった。
物置だった場所を生活しやすいように配置された部屋を見回す。幼い頃に隠れていつ見つかるかなと、ドキドキしていたのが懐かしい。今でも後ろのドアから誰かが入ってくるのではないかとそわそわする。
この部屋の主は、もう二度と帰ってこないというのに。
(確かこのあたりに……)
エミリは引き出しを漁ると、隠されるように保管されていた宝石箱を取り出した。リシェルの瞳によく似たエメラルドがはめ込まれた指輪だ。
(これこれ。ずっと欲しかったのよね)
この指輪は亡くなったリシェルの母親の形見だ。エミリが幾度となく欲しがってもリシェルは決して手放そうとしなかった。たとえ新調したばかりのドレスをエミリに奪われても、フランクが叱りつけても、この指輪だけは死守していた。
エメラルドは小さいが、シルバーの台座に置かれたそれはひと際輝いて見える。
「大切なものならずっと身につけていればいいのに。私が諦めているとでも思ったのかしら。……でももう、いいわよね。お姉様がいなくなってしまったのだから、今日から私のものよ」
指輪を自分の指にはめる。エメラルドが照明に反射して煌めいたのを見て、ほう、と息を漏らした。なんて美しい。
「お姉様、悪く思わないでね。あなたの代わりに、このエミリが幸せになってみせるから!」
ようやく手に入った自由を噛みしめながら、エミリはまた一度高々と笑った。
都心の中でも隣国側に近い位置にするギルバート領からの出発だが、グランヴィル王国まで馬車で一週間はかかる。
ベンジャミンがいないギルバート邸に居座る必要はない。自宅へ戻ったエミリは、真っ先にリシェルの部屋へ向かった。
物置だった場所を生活しやすいように配置された部屋を見回す。幼い頃に隠れていつ見つかるかなと、ドキドキしていたのが懐かしい。今でも後ろのドアから誰かが入ってくるのではないかとそわそわする。
この部屋の主は、もう二度と帰ってこないというのに。
(確かこのあたりに……)
エミリは引き出しを漁ると、隠されるように保管されていた宝石箱を取り出した。リシェルの瞳によく似たエメラルドがはめ込まれた指輪だ。
(これこれ。ずっと欲しかったのよね)
この指輪は亡くなったリシェルの母親の形見だ。エミリが幾度となく欲しがってもリシェルは決して手放そうとしなかった。たとえ新調したばかりのドレスをエミリに奪われても、フランクが叱りつけても、この指輪だけは死守していた。
エメラルドは小さいが、シルバーの台座に置かれたそれはひと際輝いて見える。
「大切なものならずっと身につけていればいいのに。私が諦めているとでも思ったのかしら。……でももう、いいわよね。お姉様がいなくなってしまったのだから、今日から私のものよ」
指輪を自分の指にはめる。エメラルドが照明に反射して煌めいたのを見て、ほう、と息を漏らした。なんて美しい。
「お姉様、悪く思わないでね。あなたの代わりに、このエミリが幸せになってみせるから!」
ようやく手に入った自由を噛みしめながら、エミリはまた一度高々と笑った。