リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
◇
リシェルが学園の授業と平行して王立図書館の司書の試験に合格した頃、ベンジャミンは彼女の優秀さを更に鬱陶しく思い、エミリとともに過ごす時間が増えていた。
一方で、両親であるギルバート公爵夫妻は息子の言動にうんざりしていた。
彼は次期当主で、婚約者がいる身である。遊びにうつつを抜かしている暇があれば仕事を覚えろと言っても、開き直ってさぼるばかりだった。
そこで夫妻は、ベンジャミンに領地の一部の管理を言い渡した。リシェルの力を借りてもいいから、領主の自覚を持って欲しい――その一心で今まで指導してきたが、彼には何ひとつ響いておらず、リシェルにすべて任せきりにする日々を送っていた。
『――ベンジャミン様。これは一体どういうことですか?』
ある日、ベッカー邸にてエミリとお茶を嗜んでいたところにリシェルがやってきた。
いつもの艶やかな亜麻色の髪は乱れ、真っ青な顔をしている。
『おや、リシェルじゃないか。お邪魔しているよ。君をデートに誘おうとしたら不在と聞いてね、エミリ嬢に相手を――』
『そんなのどうでもいいです!』
ベンジャミンの言葉を遮って、リシェルはテーブルにとある書類を叩きつける。令嬢らしからぬ行動に、ベンジャミンもエミリも目を丸くした。
『そんなのって……この僕が自ら誘いに……ん?』
テーブルに乱雑に置かれた書類は、ベンジャミンの名が書かれた借用書だった。
どうしても欲しいとエミリにねだられたものがあるのだが、この時すでに、家の金は手を出すなと口酸っぱく言われたばかりだった。そこでフランクに相談したところ、格安で金を借りられるセルペンテ商会を紹介してもらい、世話になっていた。リシェルが持ってきた借用書はそのひとつだ。
『これは何のために作成されたのでしょう? 確かに公爵領には今、レニン麻の売り上げが不安定ですが、借金をするほどではございません。しかもこの商会は……フランク伯父様の得意先ではありませんか!』
『それがどうした? ベッカー伯爵と良好な関係を築いている証だし、自分で借りた金を何に使おうが僕の自由じゃないか』
『その商会は以前、行政から告発されたことがあります。しかもつい最近、また国の調査が入ったと聞きました。そんな場所に公爵家のご令息が出入りしていると知られたら、信用問題になりかねません。あなたがすべきことは金を借り、私腹を肥やすことではありません。領地の一部を任された者として、もっと領民の声に耳を傾けてみませんか?』
『――煩いなぁ!』
リシェルが学園の授業と平行して王立図書館の司書の試験に合格した頃、ベンジャミンは彼女の優秀さを更に鬱陶しく思い、エミリとともに過ごす時間が増えていた。
一方で、両親であるギルバート公爵夫妻は息子の言動にうんざりしていた。
彼は次期当主で、婚約者がいる身である。遊びにうつつを抜かしている暇があれば仕事を覚えろと言っても、開き直ってさぼるばかりだった。
そこで夫妻は、ベンジャミンに領地の一部の管理を言い渡した。リシェルの力を借りてもいいから、領主の自覚を持って欲しい――その一心で今まで指導してきたが、彼には何ひとつ響いておらず、リシェルにすべて任せきりにする日々を送っていた。
『――ベンジャミン様。これは一体どういうことですか?』
ある日、ベッカー邸にてエミリとお茶を嗜んでいたところにリシェルがやってきた。
いつもの艶やかな亜麻色の髪は乱れ、真っ青な顔をしている。
『おや、リシェルじゃないか。お邪魔しているよ。君をデートに誘おうとしたら不在と聞いてね、エミリ嬢に相手を――』
『そんなのどうでもいいです!』
ベンジャミンの言葉を遮って、リシェルはテーブルにとある書類を叩きつける。令嬢らしからぬ行動に、ベンジャミンもエミリも目を丸くした。
『そんなのって……この僕が自ら誘いに……ん?』
テーブルに乱雑に置かれた書類は、ベンジャミンの名が書かれた借用書だった。
どうしても欲しいとエミリにねだられたものがあるのだが、この時すでに、家の金は手を出すなと口酸っぱく言われたばかりだった。そこでフランクに相談したところ、格安で金を借りられるセルペンテ商会を紹介してもらい、世話になっていた。リシェルが持ってきた借用書はそのひとつだ。
『これは何のために作成されたのでしょう? 確かに公爵領には今、レニン麻の売り上げが不安定ですが、借金をするほどではございません。しかもこの商会は……フランク伯父様の得意先ではありませんか!』
『それがどうした? ベッカー伯爵と良好な関係を築いている証だし、自分で借りた金を何に使おうが僕の自由じゃないか』
『その商会は以前、行政から告発されたことがあります。しかもつい最近、また国の調査が入ったと聞きました。そんな場所に公爵家のご令息が出入りしていると知られたら、信用問題になりかねません。あなたがすべきことは金を借り、私腹を肥やすことではありません。領地の一部を任された者として、もっと領民の声に耳を傾けてみませんか?』
『――煩いなぁ!』