リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
(……ああ、これが末路なのか)

 少しばかりは自分の心配をしてくれるのではないかと、期待した自分が馬鹿らしく思えた。なりふり構わず自分の保身だけを求める娘を哀れみながら、王家の馬車へ乗り込んだ。
 すると、門の外から聞き慣れた声がした。

「ベッカー伯爵! これは一体……!」

 駆け寄ってきたのはベンジャミンだった。困惑した表情で近づいてくるが、続けて出てきたバネッサと近衛兵士によって制止されてしまう。

「ごきげんよう、ギルバート公爵家のご令息」
「アーヴェンヌ……宰相殿がどうしてここに? ベッカー伯爵が何をした?」
「ちょっとした事情聴取です。抗議は問答無用で王家を敵に回すことになりますので、大人しくお待ちなさい」

 言葉の圧で制すと、ベンジャミンはグッと拳を固めた。

「ベンジャミン様ぁ!」
「うわっ……って、エミリ!?」

 すると突然、横からエミリが抱きついてきた。ぐずぐずの顔は目も当てられず、ベンジャミンは持っていたハンカチで顔を拭ってあげながら彼女を抱きしめる。
 その様子を見ていたバネッサは、エミリに告げる。

「エミリ嬢。あなたのご生母様にお会いしたことがありますが……とっても心酔しやすい方でした。あなたはそうならないように気をつけなさい」
「〜〜っ、なによ、なによなによなによおおおお!」

 諭すような声色だったが、先に馬車に乗り込んで聞いていたフランクには警告のように聞こえた。バネッサと離縁に話し合いをした際、突然入ってきた子爵令嬢が泣きわめいて場を混乱させたのを思い出したが、今のエミリとベンジャミンはまるで当時の自分達を見ているようだ。

(血は争えない、か)

 馬車のドアが閉まると同時に、フランクは目を伏せた。
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