リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
『私はすべてを知っている。あなた方がしてきたことも、これから始まることも全部決められた定めであることを――ゆめゆめ、お忘れなきよう』

 途端、フランクのすぐ耳元で囁く声が聞こえた。
 聞きたくない、信じたくない、そんな彼女の声が。

「……リシェルは、知っていた……?」
「そうよ。あの子はずっと前からあなたの行動に疑念を抱き、私に相談してくれた。あなたの後ろめたいものはすべてお見通しだったってわけ。あの日だって、本当は揃った証拠を受け取って一緒に真相を突き止めるはずだったのに……あんな事故に遭ってしまって……」
「は……? 待て、それはどういう……」
「そのままの意味よ。彼女が事故にあった日から二日後に、私と落ち合う予定だった」

 ――三年前のリークから調べ続け、もう一押しというところで、リシェルが突然アーヴェンヌ邸へやってきた。何かを決意した表情の彼女は、フランクの闇商会との密輸疑惑を告白した。
 なんでも、書斎を整理していた際にフランクが違法な取引を行ったとされる書類を見つけたそうだ。それが王城内で調査を行っていたソクラ草流出の件と酷似していることに気付いたリシェルは、バネッサに協力を申し出たのだ。
 そして「決定的な証拠を見つけた」とリシェルから手紙をもらい、隣国の国境付近で証拠を引き渡す約束だった。

 しかし約束の日に、リシェルは現れなかった。

 ずっと待っていたバネッサは不審に思い、迎えに行こうとしていたところで、国王の補佐ですぐに情報が入ってくる立場にある夫から、馬車事故を聞かされた。さらに葬儀を終えて間もなく、ベンジャミンがエミリに乗り換えたことを知り、バネッサは不快感によってその場に立ち崩れたのだった。

 フランクと結婚していた頃、顔を出すたびにいろんな話をした、可愛い可愛い妹のような存在――そんな彼女の死を、簡単に受け止められるはずがない。
 バネッサは放映機を握りしめ、震える声色を抑えながらフランクを見据える。

「一人の少女を無碍に扱い、甘い汁をすすって生きるベッカー伯爵家には心底呆れました。私はあなた達を許さない……覚悟なさい、あの子の分まで私が地獄へ叩き落として差し上げますわ!」
「〜〜っ!」
「フランク・ベッカー伯爵。ルーカス王太子殿下より、来城せよとお達しです。ご同行いただきます」

 廊下で控えていた近衛兵士に連れられ、外に停めている王家の馬車に向かう。

「お父様っ! そんな……嫌あああ!」

 後ろから慌てた様子のエミリの声が聞こえる。ちらと後ろを見れば、涙や鼻水でぐしゃぐしゃの顔でこちらに駆け寄ろうとしているのを執事に止められていた。

「エミリお嬢様、落ち着いてくださいませ」
「嫌よお父様! 私とベンジャミン様のお屋敷は? これからの私のお金は? ドレスも宝石も全部、私に残してくれなきゃ嫌よ!」
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