リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
翌日。王家主催の異国交流夜会パーティーは王城の大広間で行われた。
煌めくシャンデリアがダンスフロアを照らし、豪勢な食事や酒が用意されて参加している貴族達は皆、楽しいひとときを過ごしている。
久々の夜会にジェイクは目を輝かせ、辺りを見渡している一方で、エミリは心身ともに疲れた身体に鞭打って顔見知りの貴族に挨拶回りを始めた。
エミリは元々、リシェルと同等に社交界でも有名な高嶺の花だった。彼女なりに意地があったのだろう。綺麗にまとめ上げられたピンクブラウンの髪、薄桃色のドレスの姿に合わせたエメラルドの指輪はよく映えた。
疲れなど一切感じられない振る舞いに、ベンジャミンはほう、と感心する。
(さすが僕のエミリ。この場での役目をよくわかっている。もっと僕のために役立っておくれよ!)
すると、ふと片隅で話していた貴婦人達の声が聞こえてきた。
「あれが、ギルバート公爵家のご令息と奥様らしいわよ」
「確かリシェル様とは婚約解消されて、亡くなられた直後に妹君のエミリ様とご結婚なさったのよね」
「しかも流産されてしまったとか。ベッカー家の件もありましたし……立て続けで大変な時に、よく夜会に参加できましたわね」
(……ん?)
貴婦人らの話にベンジャミンは首をかしげた。
エミリの嘘の妊娠はもちろん、流産したことはどこにも公にしていない情報だ。一体どこから漏れたのだろう。
(いや、考えても無駄だな)
いろんな想像が浮かぶが、今はリシェルの情報集めが優先だ。他の貴族に囲まれているエミリの側にやってくると、我が物顔で話に割って入る。
「皆様、ごきげんよう。妻が世話になっているようですね」
「ああ、ギルバート家のご令息。ごきげんよう。お噂はかねがね」
「ん? 噂?」
「ええ、あなたがリシェル嬢とエミリ嬢を二股していた末の婚約者交代だったこととか」
「はぁ!?」
公にはなっていないことが広まっていて、ベンジャミンは思わず声を上げた。見ればエミリも顔を真っ赤にしており、唇を噛み締めている。どうやらベンジャミンが割ってくる前にその話をしていたらしい。
二人の様子を見て、貴族の一人はこそっと告げる。
「ギルバート領でのことも話題に上がっています。今日は隣国の来賓もいらっしゃる交流会ですし、余計なことはなさらないほうが良いかと」
「なっ……し、失礼だな君は! 誰に向かってそんな口を……!」
「何を言われても構いませんが、今後のあなたがたのためにはなりませんよ。……忠告だけ、しておきますね」
それだけを言い残して貴族達は一礼して立ち去っていく。その後ろ姿を見ながら、ベンジャミンは奥歯を噛みしめる。