リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
「ううっ、ごめんなさい、ごめんなさいお姉様……馬鹿な私を許して!」
「エミリ嬢……」
身体を震わせ、ぐしゃぐしゃの顔で泣くエミリを、バネッサは優しく抱きしめた。まだ間に合う、手遅れになる前に手を伸ばしてあげられる。――そう、強く願っての行動だった。
その思いはエミリにも伝わったのか、次第に呼吸が落ち着いてきた。それと同時に、身体の奥からじわじわと黒い何かが溢れてくる。
(ああ、駄目。抑えられない。誰か、お姉様――助けて!)
途端、エミリはバネッサの腕を強く掴んだ。指が皮膚に食い込むほどの力だ。
「いっ……エミリ嬢、どうしたの?」
「……ディ」
「え?」
「キャンディ……キャンディを、頂戴!」
次の瞬間、エミリの身体が大きく震え始めた。呂律の回らない口で、必死にバネッサにしがみつき訴える。
「甘いキャンディを頂戴! お願い、早く早く早く!」
「エミリ嬢! 待っ……」
「あれがないと苦しいの! お願い、レオニスを呼んで…私にキャンディを頂戴!!」
身体の震えはどんどんと大きくなり、痙攣を起こし始めた。意識も朦朧とし始め、医師が入れ替わって処置に移る。
「バネッサ様、怪我は……!」
「私は大丈夫。それより、ルーカス殿下とテオを呼んで!」
牢から出てきたバネッサは、心配する侍女と騎士達に指示する。掴まれた腕の出血した箇所を持っていたハンカチで抑えると、牢の扉を見据える。
中で処置を受けているエミリがこれ以上、手遅れにならないことを願った。