リシェル・ベッカーが消えた日〜破滅と後悔はすぐそこに〜
近衛兵士がやってきて牢を開けると、フランクは素直に従った。
案内されたのは取調室だった。拘束された当初は、連日のようにこの部屋で尋問を受けてきたが、持っていた情報はすべて出しきった。これ以上何も話すことはないのに、なぜ再び呼ばれたのか、心当たりはない。
「ごきげんよう。体調はいかがですか?」
目の前に座る文官のテオがフランクを見据えて問う。
思えば、フランクは隣国の教会で会ったあの時から、テオという青年に違和感を覚えていた。
グランド伯爵家はアーヴェンヌ公爵家の親戚にあたり、さらにアーヴェンヌ公爵家は元々グランヴィルから移住してきた一族だ。
(隣国と繋がっている可能性は大いにあるが、この若造から感じる威圧感はなんだ?)
改めて呼ばれたことにも疑問が残る。小さく笑みを浮かべる裏に何を企んでいるのか――フランクはテオ・グランドという人物が恐ろしく思えた。
「今度は何の用だ? 商会の場所に取引相手、次の会合の開催まで俺が知っていることはすべて話した。これ以上、何を望む?」
「そうですね――あなたが犯した罪について、でしょうか」
フランクが警戒する一方で、テオはあるものを彼の前に置いた。
「これは先日、ある闇商会の一つを調査した際に出てきたものです。見た目はただのキャンディですが、ソクラ草が持つ魔力を大量に詰め込んだ違法薬物であることがわかりました。あなたが闇商会で取引使っていたソクラ草が、この薬物キャンディに使われていたことはご存じですか?」
「……何だと?」
テーブルの上に置かれた、薄桃色の紙に包まれたキャンディをじっくりと見入る。巧妙に隠されてはいるが、フランクの目にはキャンディ全体を包むように魔力が宿されているのがわかった。
「食品にも魔力は宿ることはありますが、このように魔力を保持し続けるものは今までの研究結果をもってしても難しい。しかもソクラ草は万能薬と呼ばれる一方で、魅了薬と裏で呼ばれるほど中毒性が高い。制限もせず食べ続けていたら、気づかないうちに依存していることがあります。そして先日、事情聴取を受けていたエミリ嬢が突然『キャンディが欲しい』とアーヴェンヌ宰相殿に縋り付いたそうです」
「なんだと……まさかっ!」
「医師の診断と症状からして、エミリ嬢はソクラ草を過剰に摂取したことによって体内の魔力の許容範囲を超えてしまい、魔力過多を起こして今回の暴走に繋がったと、我々は考えています」
フランクは驚愕した。自分が知らないところでソクラ草が悪用され、さらにはエミリにも影響を及ばせていたとは。
「し、しかし! エミリには俺の仕事には一切関わらせてはいない! 一体どこでそんなものを……」
「あなたが見ようとしなかったのでは? 渡していた人物がいたんですよ」
テオはさらにもうひとつ、キャンディをテーブルに並べた。