恋のリハーサルは本番です
第136話 書けない夜、恋が本音になる
夜は、思考を過剰に正直にする。
あかりはキーボードから指を離し、打ち込んだ一文を見つめたまま動けずにいた。
『ヒロインは、恋を自覚した瞬間、
同時にそれを失う覚悟をする』
(……これ、私じゃない)
そう気づいた瞬間、胸の奥がひりついた。
書いたのは台詞。 けれど、これはもう「物語」じゃない。
(書けてしまった、ということは)
あかりはゆっくりノートパソコンを閉じた。
今日は、これ以上書けば壊れる。 脚本も、自分も。
一方、その頃。
◆ 桜井蓮のアパート
照明を落としたワンルーム。 ベッドの端に腰掛けたまま、蓮はスマホを手にしていた。
画面には、あかりの名前。 ──未送信のメッセージ。
『今日はお疲れさまでした』
それだけの文を、何度消しては打ち直したかわからない。
(……何やってんだ、俺)
舞台では、感情を抑えない演技ができるのに。
私生活になると、臆病になる。
「役者だから」 「脚本家だから」
その線を引いたのは、自分だ。
(でも)
脳裏に浮かぶのは、稽古場でノートパソコンに向かうあかりの横顔。 真剣で、少し無防備で。
(あの人の世界に、踏み込んでいいのか)
それが怖かった。
スマホを伏せ、蓮は天井を見つめる。
「……待つって、逃げじゃないよな」
誰にともなく呟く。
◆ 同じ夜、同じ月
あかりはベッドに横になりながら、目を閉じていた。
眠れない。 けれど、考えるのをやめる気もない。
(もし……)
もし、今、蓮から連絡が来たら。 たった一言でも。
(私は、どうするんだろう)
答えは、出ている。 だからこそ、怖い。
あかりは、枕に顔を埋めた。
「……ずるいな、役者さんは」
心の奥で、そう呟く。
演じることで、感情を外に出せる。 脚本家は、内側で抱え込むしかない。
◆ 夜明け前
二人とも、同じように眠れないまま。 同じ月を見上げることもなく、 同じ想いを抱えながら。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
──もう、この恋は「リハーサル」じゃない。
誰かが告白しなくても。 触れなくても。
気づいてしまった時点で、 本番は、始まっている。
あかりはキーボードから指を離し、打ち込んだ一文を見つめたまま動けずにいた。
『ヒロインは、恋を自覚した瞬間、
同時にそれを失う覚悟をする』
(……これ、私じゃない)
そう気づいた瞬間、胸の奥がひりついた。
書いたのは台詞。 けれど、これはもう「物語」じゃない。
(書けてしまった、ということは)
あかりはゆっくりノートパソコンを閉じた。
今日は、これ以上書けば壊れる。 脚本も、自分も。
一方、その頃。
◆ 桜井蓮のアパート
照明を落としたワンルーム。 ベッドの端に腰掛けたまま、蓮はスマホを手にしていた。
画面には、あかりの名前。 ──未送信のメッセージ。
『今日はお疲れさまでした』
それだけの文を、何度消しては打ち直したかわからない。
(……何やってんだ、俺)
舞台では、感情を抑えない演技ができるのに。
私生活になると、臆病になる。
「役者だから」 「脚本家だから」
その線を引いたのは、自分だ。
(でも)
脳裏に浮かぶのは、稽古場でノートパソコンに向かうあかりの横顔。 真剣で、少し無防備で。
(あの人の世界に、踏み込んでいいのか)
それが怖かった。
スマホを伏せ、蓮は天井を見つめる。
「……待つって、逃げじゃないよな」
誰にともなく呟く。
◆ 同じ夜、同じ月
あかりはベッドに横になりながら、目を閉じていた。
眠れない。 けれど、考えるのをやめる気もない。
(もし……)
もし、今、蓮から連絡が来たら。 たった一言でも。
(私は、どうするんだろう)
答えは、出ている。 だからこそ、怖い。
あかりは、枕に顔を埋めた。
「……ずるいな、役者さんは」
心の奥で、そう呟く。
演じることで、感情を外に出せる。 脚本家は、内側で抱え込むしかない。
◆ 夜明け前
二人とも、同じように眠れないまま。 同じ月を見上げることもなく、 同じ想いを抱えながら。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
──もう、この恋は「リハーサル」じゃない。
誰かが告白しなくても。 触れなくても。
気づいてしまった時点で、 本番は、始まっている。