妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「……ごめんなさい、私があなたのそばにいない方がいいことはわかっているんです。でも、どうしてもラウロ様ともう会えなくなるなんて嫌でした。ラウロ様が王女様と婚約すると考えたら苦しくて……」

「そばにいない方がいいわけないだろう。俺だってずっと君にそばにいて欲しい。王女と婚約なんて絶対にしないから安心してくれ」

 ラウロ様は私の頬に手をあてながら、優しい声で言ってくれる。その言葉にほっとしたら、目にじわりと涙が滲んだ。

 ラウロ様はぐるりと国王様と王妃様の方を振り返る。


「陛下、王妃様。ヨラド王国の王女との婚約の件はお断りさせてください。俺には心に決めた人がいるのです」

「え、あ、そうか。そうみたいだな」

「そうね、まぁ、それなら……。結婚を無理強いするのはよくなかったわね」

 国王様と王妃様は、先ほどまでの強硬な態度とは一転して、しどろもどろに言葉を返している。

 それから国王様は、王妃様と小声で何か話し合い始めた。

 はっきりとは聞こえないけれど、「第四王女との結婚は必須ではないのだし……」とか、「この力を王宮で囲い込むほうが有益ではないか?」なんて言葉がかすかに聞こえてくる。

 しばらくすると話し合いは終わったようで、国王様は私の方を向いた。


「ローレ嬢、君の想いはよくわかった。ヨラド王国の王女との婚姻の件は再考しよう。君には後日また王宮に来てもらうかもしれないが、そのときはよろしく頼む」

「はい……! ありがとうございます……!」

 国王様の言葉に、私は大きくうなずいた。国王様と王妃様は、私の答えに満足げに笑う。

 随分と強引なことをしてしまったけれど、お二人とも私の想いをわかってくれたみたいだ。

 王国の頂点に立つ方たちだけあって、なんて心が広いのだろうと感動してしまう。

 私が感動に浸っていると、国王様はにこやかに言った。


「ローレ嬢、今すぐにラウロと婚約させることは出来ないが、王家との繋がりを作っておくために契約をしておくのはどうだろう」

「契約ですか? 一体何の契約でしょう……?」

「ああ、君のように才能ある人物を王国から逃がさないように……じゃなくて、王国で後押しするための契約があるんだ。王家の許可がなければ他国に行かれない、王国の危機には全てを投げ打って国に尽くさなければならないなどといったような多少の決まりはあるが、大きな制約はない。なんならこの後すぐにでも契約を結んではどうだろうか」

「そのような契約があるのですね。それでしたら……」

「ジュスティーナ嬢! ちょっと待ってくれ! 多少の決まりどころじゃなかったぞ!? 陛下、そのような重要な契約を考える時間もなしに結ばせようとするのはやめてください。ジュスティーナ嬢にはそのような危険な契約などさせたくありません」

 王家との繋がりと言われ、それならば契約しておいた方が良いのかと私が承諾しようとすると、ラウロ様に慌てた様子で止められた。

 国王様はラウロ様に睨まれて、不満そうな顔をしている。


「ローレ嬢が万が一にも他国へ行くのを防ぎたかっただけで、危険なことをさせるつもりはなかったんだが……。まぁいい。ローレ嬢、近いうちに王宮に呼ぶから、その時に今後の話をしよう」

「はい、陛下。ありがとうございます」

「陛下。お話はそれだけでしたら、そろそろ退室させていただいてもよろしいでしょうか」

「一応話は終わったが……」

「承知しました。行こう、ジュスティーナ嬢」

 ラウロ様はそう言うなり、陛下を警戒した目で見ながら私を扉の方まで引っ張って行く。

 私は慌てて国王様と王妃様に頭を下げると、部屋を後にした。
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