妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 貴重とは言うが、ローレ家に生まれてくる者が使える光魔法はそれほど強いものではない。小さな怪我や疲れを癒せる程度で、使い道は限られている。

 王国には瘴気に覆われた地帯を浄化したり、重傷を負った怪我人を治せたりするような者を多く輩出する光魔法の名門の家系もあるが、そういう家とは全く事情が違っていた。

 私は不思議に思いながらも殿下の質問に答える。

「一応使えます。けれど、私の光魔法は植物にしか効かない中途半端な魔法なんです」

「……へぇ、植物」

 答えると、なぜかコルラード様の目が鋭く光ったように感じた。顔は笑っているのに、その目には強い悪意が滲んでいるように見える。

 思わず固まる私の腰にさっと手を添えて、コルラード様は楽しげな表情で抱き寄せる。


「色々教えてくれてありがとう。君のこと、とても気になっていたんだ」

「え……」

 コルラード様は綺麗な笑みを浮かべて言う。口調には親しみがこもっているのに、嫌な感じがするのはなぜだろう。

 私の困惑なんかまるで無視して、コルラード様はダンスを続ける。

 コルラード様の動きは軽やかで、素人の私にも技術の高さがはっきりわかった。けれどその分ついていくのが大変で、私は必死で殿下の動きに合わせる。

 息切れしそうになりながらなんとか踊り続けた。


「……だからラウロは君を拾ったんだな」

 息を切らす私の頭の上で、呟くようにそんな声が聞こえた。思わず顔を上げて殿下を見る。

 聞き間違いだろうか。どうしてコルラード様がそれを知っているのだろう。そもそも、先ほどは初対面のように見えたのに、ラウロ様のことを知っていたのだろうか。

「あの、殿下、それはどういう意味ですか……?」

「ああ、すまない。なんでもないよ」

 殿下は完璧な笑みを浮かべて言う。それから私の耳元で囁いてきた。

「ただ、あまりラウロに近づかないほうがいい。あいつはきっと君を利用するつもりだ。君が中途半端だと言うその植物にだけ効く魔法。それが必要だから、君をそばに置いてるんだ」

「な……」

 驚いて殿下の目を見つめるが、彼は愉快そうに笑うだけだった。

 私がどういう意味かと何度尋ねても、曖昧に流される。それ以上食い下がることも出来ず、不安な気持ちのままただ踊り続けた。
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