妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 エルダさんは花を眺める私の隣に座り、目を細めて花壇を見ていた。

 ふと、ラウロ様が教えてくれないのなら、エルダさんに聞いてみればいいのではないかという考えが浮かんできた。

 ラウロ様はエルダさんに随分心を許しているようだし、彼女なら何か知っているかもしれない。

 私はエルダさんに向かって口を開いた。

「あの、エルダさん」

「なんでしょう?」

「ラウロ様はどうして私をこのお屋敷に呼んでくれたのか、わかりますか?」

 尋ねると、エルダさんは目をぱちくりする。

「ラウロ様がジュスティーナ様を呼んだ理由、ですか?」

「はい。私、このお屋敷に呼んでもらった日、ラウロ様と初対面だったんです。家に帰りづらくて困っているからと話したらご親切にうちに来たらいいと言ってくれて。それで……」

 ラウロ様は、私の光魔法が必要で呼んだのではないのか。そうだとしたら、ラウロ様が必要とする魔法とはどんなものなのか。

 それを聞きたくて口を開きかけると、エルダさんはのんびりした声で言った。


「どうしてでしょうねぇ。ラウロ様、ジュスティーナ様に一目惚れでもなさったんじゃないですか」

「え……っ!?」

 あっけらかんとそう言われ、予想外の返答に戸惑ってしまった。

「い、いや、そんなはずはないです!」

「だって私、ラウロ様が幼い頃からお世話していますけれど、あんなに人に興味を示すところを見たのは初めてですもの。私もよく、『ジュスティーナ嬢はこの屋敷で不快なことがないだろうか』なんて相談されるんですよ。真剣なのが可愛くて」

 エルダさんはくすくす笑いながら言う。

 そんなはずはない。ラウロ様はきっと同情か、それでなかったら私を何かに利用するつもりで連れてきたのだ。

 しかし、自分にそう言い聞かせても、自然に顔が熱くなってしまう。

 動揺する私に、エルダさんはのんびりした声のまま続けた。


「私はとっても嬉しいのですわ。ジュスティーナ様のような方がラウロ様のそばにいてくれて。ラウロ様は本当にいい子なのに、呪いのせいで不遇な目にばかり遭って来ましたから。小さい頃はもっと投げやりだったんですよ。お勉強もお稽古も何をやったって意味がないと暴れて」

「そんなことが……」

 今の淡々としたラウロ様からは想像できない。

 けれど、そういえばダンスパーティーの日、ダンスなんて覚えても意味がないとごねる自分にエルダさんは根気よく教えてくれたと話していたのを思い出す。

 現在のラウロ様は、顔の痣を気にしているようではあるものの、それを受け入れているように見えた。

 しかし、そうなるまでには様々な葛藤があったのかもしれない。

 私がそんなことを考えてしんみりしていると、エルダさんはぱっと顔を上げた。


「あら、嫌だ! 私ったら話し過ぎてしまいましたわ。ラウロ様に怒られてしまいます」

 エルダさんは立ち上がると、エプロンについていた土埃を手で払った。そしてポケットから鋏を取り出すと、灰色の木の方へ向かって行って手際よく枝を数本切る。

 何をしているのだろうと思いながら見ていると、エルダさんは枝を持ってこちらへ戻って来た。
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