妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 再び短剣に光魔法をかけた。

 蔓はその度に元の色を取り戻していくけれど、それと連動するようにラウロ様にも痛みが走るのか、抑えたような呻き声が聞こえるので気が気ではなかった。

 私は不安に駆られながらも、どうにか言われた通り魔法をかけ続ける。

 やがて、短剣を覆っていた黒い蔦は、完全に緑色に変わった。

 それと同時に黒かった剣が、ゆっくりと金色に変わっていく。驚いたもののラウロ様の状態が気になって仕方なかったので、すぐに短剣を置いて彼の元へ行った。

 私はしゃがみ込んでいるラウロ様の前に、同じようにしゃがみ込む。


「ラウロ様、大丈夫ですか……? 光魔法をかけ終わりましたよ」

「ジュスティーナ嬢……」

 苦しそうに顔を押さえていたラウロ様が、荒い息のまま顔を上げる。

 その顔を見て目を見張った。

 ラウロ様の顔からは、はっきり刻まれていたはずの蔦の文様が綺麗に消えてしまっていたのだ。


「ラウロ様、顔……! 痣が……!」

「ど、どうなってるんだ」

「ちょっと待っていてください、さっき見つけた鏡を……!」

 私はすぐさま、先ほどテーブルから落ちた本の間から鏡を拾い上げる。そしてラウロ様の前に突き出した。

「消えてる……?」

 ラウロ様は鏡を見て、呆然としていた。

 痣があったはずの左頬に触れては、信じられないというように目を瞬かせている。


「ラウロ様。もしかして、これ、呪いが解けたということでしょうか……?」

「そうなのだろうか……」

 ラウロ様はまだ状況が信じられない様子だった。鏡をじっと見ては何か呟いている。

「信じられない……。こんなにあっけなく……。物心がついてからずっと呪いを解く方法を探し続けてきたのに……」

 呆然と鏡を見ていたラウロ様は、突然ぱっとこちらを振り返った。


「ラウロ様、よか……っ」

「ありがとう、ジュスティーナ嬢!」

 私が言いかけた途端、ラウロ様にがばりと抱きしめられた。私は驚いて固まってしまう。

 動けなくなる私に気づかず、ラウロ様はありがとう、ありがとうと何度も繰り返している。

「まさかこんなに早く呪いが解けると思わなかった! 一生このままかもしれないと覚悟していたのに……! ありがとう、ジュスティーナ嬢。なんとお礼を言ったらいいのかわからない」

 ラウロ様はぎゅっと私を抱きしめたまま、心底嬉しそうな声で言う。


「あの……ラウロ様……!」

「ん? どうした?」

「す、少しだけ離していただけると……」

 私がどうにかそう言うと、ラウロ様はきょとんとした顔でこちらを見る。

 それから我に返ったように目を見開くと、慌てた様子で体を離した。途端にその顔が真っ赤に染まる。

「す、すまない……! あんまり嬉しかったものだから」

「ええ、大丈夫ですわ。長年の悲願が叶いましたものね」

 私がそう言っても、ラウロ様は顔を赤くしたまま申し訳なさそうに謝っていた。
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