妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 私は少しだけ落ち着いた気持ちでその顔を見る。

 痣のなくなったラウロ様の肌には傷一つない。憂いがなくなったからなのか、顔色まで良くなった気がする。

 安心すると同時に、別の感情が胸を埋めていく。

 切れ長の青い目に高い鼻、彫刻のように美しい輪郭。痣がある時から整っているとは思っていたけれど、痣のなくなったラウロ様の顔は破壊的なまでに美しくて、直視できなかった。


「ジュスティーナ嬢、どうかしたか?」

 私の様子がおかしいのに気づいたのか、ラウロ様が心配そうに顔を覗き込んでくる。私は思わず勢いよく顔を逸らしてしまった。

 しまったと思ったときには遅く、上からラウロ様の不安げな声が降ってくる。


「やはり怒っているのか……? 軽率に触れてすまなかった……」

 どうやら先ほど抱きしめられたことで、私が不快に思っていると考えたらしい。元気のない声で謝られ、私は慌てて首を横に振った。

「違いますわ! 全然怒ってなんかいません。痣のない顔が見慣れなくて、少し動揺してしまっただけです!」

「本当か……? それならいいんだが」

 私が言うと、ラウロ様は安心したように微笑んだ。

 その邪気のない笑みを見たら、心臓がうるさいくらい音を立てた。私はどうにか気持ちを落ち着けて、誤魔化すように言う。


「け、けれど、不思議ですよね。どうして突然呪いが解けたのでしょう?」

「ああ、本当に不思議だ。やはり君が短剣に巻き付いていた蔦に光魔法をかけてくれたからだと思うが……」

 ラウロ様は眉根を寄せて考え込んでいる。

 私も不思議な気持ちでいっぱいだった。呪いが解けることを強く願ってはいたけれど、まさか短剣に巻き付いた蔦に魔法をかけて、ラウロ様の顔の痣が消えるなんて思いもしなかった。

 あの短剣には特別な意味でもあるのだろうか。そう考えたところで、先ほど短剣の色が変化したことを思い出す。


「そうだ、ラウロ様! お伝えしたいことがあったんです! 実は短剣自体の色が……」

 言いながら私は短剣を手に取り、ラウロ様の前に持ってくる。

 短剣を見た途端、ラウロ様は目を見開いた。

「色が変わっている……!」

「そうなんです。蔦の色が完全に緑になると、短剣の色までみるみるうちに黒から金に変わっていったんです」

 短剣は、先ほどまでおどろしい黒色をしていたのが嘘のように、眩い金色の光を放っていた。

 柄の部分につけられたラウロ様の目と同じ青色の宝石も、すっかり光を取り戻している。瑞々しい緑の蔦の巻きついた短剣は、まるで生まれ変わったようだった。

 ラウロ様はおそるおそる私から短剣を受け取ると、じっと眺めて言う。


「まさかこの短剣が光を取り戻すなんて」

 ラウロ様は痣が消えたのを見たときと同じく、信じられないという顔で短剣を見つめていた。その顔には動揺が浮かんでいるものの、同じくらい嬉しそうに見える。

「よかったですわね、ラウロ様」

「ああ、全て君のおかげだ。本当にありがとう」

 ラウロ様は何度目かわからないお礼を言って笑った。

 その表情からこれまで滲んでいた憂いがすっかり消えているのを見て、私はとても幸せな気持ちになった。
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