妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ジュスティーナ様、ラウロ様をあの忌まわしい呪いから解放してくださって、本当にありがとうございました……」

 エルダさんはそう言って深々と頭を下げる。それに続くように、ほかの使用人たちも一斉に頭を下げた。

 私は慌てて「大したことはしていませんから」と両手を振る。

 戸惑う私を見て、ラウロ様は微笑みながら言った。


「ジュスティーナ嬢、俺に何かお礼できることはないだろうか。何か欲しいものや、して欲しいことはないか?」

「えっ、そんなこと! いただけませんわ。そもそも私、ラウロ様にお世話になってばかりでしたもの」

 お礼も何も、そもそも私の方が何日も無償でお屋敷に泊めてもらい、お世話になり続けてきたのだ。せっかくお返しが出来たのに、またお礼なんてもらっては借りだらけの状態に戻ってしまう。

 しかし、ラウロ様は私の答えに不服そうだった。

「屋敷に数日泊めるのと、長年煩わされてきた呪いを解くのとでは、価値が違い過ぎる。俺に出来ることは何でもするから、遠慮なく言ってくれ」

「いいえ、本当に私は」

 私が戸惑うと、横からエルダさんや他の使用人さんたちが勢い込んで言う。

「ジュスティーナ様! せっかくですから、お好きなものを頼んでしまいましょうよ。どんなものでも私共でラウロ様に意地でも用意させますわ!」

「そうですよ、ジュスティーナ様! あなたにはその権利があります!」

「ドレスとかアクセサリーとか、欲しいものはないのですか!?」

 彼らは目を輝かせてこちらを見る。ラウロ様も私の答えを期待しているように見えた。お礼はいらないと言える雰囲気ではなく、私は頭を抱えた。

「で、では考えておきます……」

 私は彼らの勢いに押されつつも、どうにかそう言った。ラウロ様も使用人さんたちも少し残念そうだったけれど、一応は納得してくれた。


 騒ぎがようやく収まり、使用人さんたちが散り散りに仕事場に戻って行くと、エルダさんがラウロ様の元へ近づいてきて、弾んだ声で尋ねる。

「ラウロ様、陛下と王妃様にはいつご報告なさいます?」

「……お二人にか……」

「ええ、早くお知らせするべきですわ! 呪いが解けたのなら、もうラウロ様が不遇な扱いを受ける理由はありません。すぐにでも病死したなんていうあの忌々しい嘘を撤回させましょう!」

「そうだな、報告しなくてはいけないよな……」

 すぐにでも王宮へ行って国王陛下と王妃様にお伝えしようと息巻くエルダさんに対し、ラウロ様はあまり乗り気ではなさそうだった。報告したくないという気持ちさえ感じられる。

 ラウロ様は、難しい顔でエルダさんを見ながら言った。

「そこまで急ぐことはないんじゃないか? 陛下も王妃殿下もお忙しいだろう。手紙だけ書いて、お二人に呼び出されたら行くよ」

「ラウロ様、そんなことをおっしゃって! 実の子の呪いが解けたのですよ!? 陛下も王妃様もお喜びにならないはずがありませんわ!」

「といっても、数年会っていないしなぁ……」

 エルダさんは力を込めて言うが、ラウロ様はやっぱりお二人に会いたくない様子だった。

 先ほどラウロ様が呪いについて話してくれた時、「陛下も王妃様も今では自分の存在を忘れてしまいたいと思っているだろう」と言っていたのを思い出す。

 ラウロ様にとって、ご両親である両陛下は、私が思う以上に遠い存在なのかもしれない。
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