妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「エルダさん。それよりもドラーツィオさんに報告したいんだ。あの人には随分心配をかけてしまったから、呪いが解けたことを伝えて安心してもらいたい」
「確かにドラーツィオ様へもお伝えしなければなりませんが……。本当に陛下たちに会いに行かなくていいのですか?」
「ああ、手紙で十分だよ」
「……わかりました。ラウロ様がそうおっしゃるなら、私が口出しすることではありませんね。ドラーツィオ様に報告すれば、両陛下に詳しい事情を説明してくださるでしょうし」
ラウロ様の言葉に、エルダさんは納得いかない顔をしつつもうなずいた。
ドラーツィオ様とは、フォリア王国の宰相様だ。以前、彼はラウロ様の後見を務めている方なのだと教えてもらった。
ラウロ様の口ぶりからすると、彼にとってご両親よりも宰相様の方が気を許せる存在なのかもしれない。
私が両陛下や宰相様に思いを馳せていると、ラウロ様がぱっとこちらを向いた。
「ジュスティーナ嬢、俺はちょっとドラーツィオさんへ連絡してくるよ。もし欲しいものを思いついたら、いつでも言ってくれ」
「はい。思いついたら遠慮なくお伝えいたしますわ」
私がそう言うと、ラウロ様は満足そうに笑って広間を出て行く。エルダさんもそれに続いた。
私は二人の背中を見送りながら、何かラウロ様に負担をかけない程度の金額で、お礼の品としてふさわしそうなものはないかと、必死で頭を回転させた。
***
翌日、私はいつも通りラウロ様のお屋敷の馬車に乗せてもらい、学園へと向かった。
向かいに座るラウロ様の顔には痣のあった面影などまるでなくて、いつも通り通学しているだけなのに落ち着かなくなる。
どうやらあの痣は、私にとってバリアのような役割をしてくれていたらしい。ラウロ様を長年苦しめてきた呪いに対してこんなことを思うのはおかしいけれど。
痣のないラウロ様の顔は綺麗すぎて、慣れられる気がしなかった。
「ジュスティーナ嬢、昨日から様子がおかしいが、本当に体調は大丈夫なのか?」
「は、はい! 全く問題ありませんわ」
心配そうに尋ねられ、慌てて答える。いいかげん慣れないといけない。これではラウロ様に余計な気を遣わせてしまう。
ラウロ様はまだ心配そうな顔をしていたが、私が笑顔を作って大丈夫だと言うと、ようやく安心したようにうなずいた。
そんな風に落ち着かない時間を過ごすうちに、馬車は学園へ到着した。
いつも通り玄関ホールまでの道を歩いていると、辺りからひそひそ声が聞こえてくる。
また陰口かとうんざりしながら声の聞こえた方を見遣ると、女子生徒たちが固まって、興味津々な目でラウロ様を見ていた。
その目には、この前までとは全く違う、好意の色が浮かんでいた。
そこで私はようやく思い至る。ラウロ様の素顔はあれほど美しいのだから、私以外の女の子たちだってそう思わないはずがないのだ。
外見を恐れなくなってラウロ様に近づく人が増えたら、きっと彼の優しいところも、誠実なところも、皆すぐに気づくだろう。
あっという間に私なんかでは手の届かない存在になって、遠くへ行ってしまうかもしれない。
私は冷や汗をかいて彼女たちを見て、それからラウロ様を見た。幸い、ラウロ様は彼女たちの視線に気づいていない様子だ。
「確かにドラーツィオ様へもお伝えしなければなりませんが……。本当に陛下たちに会いに行かなくていいのですか?」
「ああ、手紙で十分だよ」
「……わかりました。ラウロ様がそうおっしゃるなら、私が口出しすることではありませんね。ドラーツィオ様に報告すれば、両陛下に詳しい事情を説明してくださるでしょうし」
ラウロ様の言葉に、エルダさんは納得いかない顔をしつつもうなずいた。
ドラーツィオ様とは、フォリア王国の宰相様だ。以前、彼はラウロ様の後見を務めている方なのだと教えてもらった。
ラウロ様の口ぶりからすると、彼にとってご両親よりも宰相様の方が気を許せる存在なのかもしれない。
私が両陛下や宰相様に思いを馳せていると、ラウロ様がぱっとこちらを向いた。
「ジュスティーナ嬢、俺はちょっとドラーツィオさんへ連絡してくるよ。もし欲しいものを思いついたら、いつでも言ってくれ」
「はい。思いついたら遠慮なくお伝えいたしますわ」
私がそう言うと、ラウロ様は満足そうに笑って広間を出て行く。エルダさんもそれに続いた。
私は二人の背中を見送りながら、何かラウロ様に負担をかけない程度の金額で、お礼の品としてふさわしそうなものはないかと、必死で頭を回転させた。
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翌日、私はいつも通りラウロ様のお屋敷の馬車に乗せてもらい、学園へと向かった。
向かいに座るラウロ様の顔には痣のあった面影などまるでなくて、いつも通り通学しているだけなのに落ち着かなくなる。
どうやらあの痣は、私にとってバリアのような役割をしてくれていたらしい。ラウロ様を長年苦しめてきた呪いに対してこんなことを思うのはおかしいけれど。
痣のないラウロ様の顔は綺麗すぎて、慣れられる気がしなかった。
「ジュスティーナ嬢、昨日から様子がおかしいが、本当に体調は大丈夫なのか?」
「は、はい! 全く問題ありませんわ」
心配そうに尋ねられ、慌てて答える。いいかげん慣れないといけない。これではラウロ様に余計な気を遣わせてしまう。
ラウロ様はまだ心配そうな顔をしていたが、私が笑顔を作って大丈夫だと言うと、ようやく安心したようにうなずいた。
そんな風に落ち着かない時間を過ごすうちに、馬車は学園へ到着した。
いつも通り玄関ホールまでの道を歩いていると、辺りからひそひそ声が聞こえてくる。
また陰口かとうんざりしながら声の聞こえた方を見遣ると、女子生徒たちが固まって、興味津々な目でラウロ様を見ていた。
その目には、この前までとは全く違う、好意の色が浮かんでいた。
そこで私はようやく思い至る。ラウロ様の素顔はあれほど美しいのだから、私以外の女の子たちだってそう思わないはずがないのだ。
外見を恐れなくなってラウロ様に近づく人が増えたら、きっと彼の優しいところも、誠実なところも、皆すぐに気づくだろう。
あっという間に私なんかでは手の届かない存在になって、遠くへ行ってしまうかもしれない。
私は冷や汗をかいて彼女たちを見て、それからラウロ様を見た。幸い、ラウロ様は彼女たちの視線に気づいていない様子だ。