妹ばかり見ている婚約者はもういりません
「ラウロ様……。よかったのですか?」

「何がだ?」

「いえ、あの子たちのこと……」

 少し歩いた先で尋ねると、ラウロ様は首を傾げて不思議そうな顔をする。それから平然と答えた。

「ああ。あんな無礼な者たちと話すことは何もない」

「無礼……」

「痣について聞かれるのは構わないが、あの二つ結びの少女、ジュスティーナ嬢に当てつけるように俺を誘ってきただろう。さすがに不愉快だった」

 ラウロ様は苛立たしげな声でそう言った。

 ツインテールの子に誘われるまで、困惑しつつも強く拒絶していなかったラウロ様が急に冷たくなったのは、そういう理由だったのかと思い至る。

 私のせいで、なんだか申し訳なくなった。しかし、同時に嬉しいとも感じてしまう。


「……ありがとうございます、ラウロ様」

「いや。むしろ不快な思いをさせてすまなかった」

 ラウロ様は眉根を下げて謝って来た。その表情は、いつも見ていたラウロ様の表情と何も変わらない。

「いいえ、全く構いませんわ。ラウロ様は私の元へ来てくれましたもの」

 私が笑顔で言うと、ラウロ様も表情を緩める。

 痣があってもなくてもラウロ様には変わりないのに、なんだか気を張り過ぎていたみたいだ。

 そう思ったら、私はやっとこれまで通り自然に笑うことができた。


***


 その後も、ラウロ様の痣がなくなったことで、至る所でざわめきが起こっていた。

 みんなラウロ様を目にすると、驚いたように目を見開いたり、呆然とした顔で見惚れたりと、様々な反応を見せる。

 特に女子生徒たちの反応は大きかった。

 今朝の女の子たちと同じように、隙を見てはラウロ様に話しかけたり、服の袖や腕に触れたりする。

 痣がなくなっただけでこれなのだから、ラウロ様が実は第三王子だと知れたらどうなるのだろうと、私はひやひやしてしまった。

 痣があった方が女の子避けになったかもと考えて、ラウロ様を苦しめてきた痣に対してそんなことを思うなんて最低だと慌てて頭を振る。


 休み時間、こっそりラウロ様の教室まで様子を見に行くと、予想通り女の子たちに囲まれて質問攻めにあっていた。

 ラウロ様は彼女たちに対して、今朝会った子たちへのような冷たい態度こそ取らなかったけれど、あまり関心がなさそうに聞かれた質問に答えるだけだった。

 私はそんな態度に胸を撫で下ろす。

 しかしほっとした後で、恋人でもないくせに自分が独占欲を抱いていることに気がついて恥ずかしくなった。

 ラウロ様がみんなに好かれているのだから、本当なら喜ばなければならないのに。
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