妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 先日殿下がラウロ様のお屋敷にやって来て、彼の首に短剣を突き立てたことを思い出し、体が強張った。

 ラウロ様も険しい表情でコルラード殿下を見ている。

 しかし、殿下はこの前のことなんて全く覚えていないかのように明るい顔でこちらへ歩いてくる。

 そしてラウロ様のすぐ隣まで来ると、周りには聞こえないような小さな声で言った。

「お前、あの醜い痣の呪いが解けたそうだな。表舞台に立つ気はないと言っていたのに、油断ならない奴だ。でもまぁ、ジュスティーナ嬢が役に立ってよかったじゃないか。屋敷に囲い込んだ甲斐があったな」

「……コルラード様、そのような言い方はおやめください」

 コルラード殿下の言葉にラウロ様は不快そうに眉を顰める。しかし、殿下は意にも介さない。

 殿下は声をひそめるのをやめて、にこやかな口調に戻って言った。

「ねぇ、君。ラウロ君とか言ったかな。少し外に出て話せないか? 二人で話したいことがあるんだ」

「申し訳ありませんが、今度にしていただけませんか」

「だめかい? それは残念だ」

 ラウロ様が断ると、コルラード殿下はあっさり引き下がる。すると今度は私の方に視線を向けた。


「ジュスティーナ嬢、今日のドレスも似合っているね。今回は青いドレスにしたんだ」

「はぁ……。ありがとうございます……」

「今回もダンスの相手をお願いしたいところだけれど、やめておくよ。また君の少々元気過ぎる魔法でひどい目に遭わされるのは遠慮したいからね」

 コルラード殿下は肩をすくめて言った。

 殿下の言葉に、周りが小さくざわめきだす。

 囁くような声で、「ひどい目って何?」だとか、「あの方、まさか殿下に危害を加えたの?」なんて言葉が聞こえてくる。

 私がどうしようかと思っていると、ラウロ様がさっと私の前に出てコルラード殿下の腕を掴んだ。


「殿下、誤解を招くような言い方をやめていただけませんか。元々はあなたが無理矢理ジュスティーナ嬢を連れ出そうとしたことが原因でしょう」

「そうだね、急ぎの用があったもので、少々強引に彼女を連れ出そうとしてしまった私も悪かった。けれどまさかご令嬢に木の蔓で首を絞められるなんて思わなかったから驚いたなぁ」

「殿下!!」

 まるでわざと周りに聞かせようとするかのようにコルラード殿下は言い募る。いや、実際周りに私が殿下に危害を加えた非常識な人間なのだと知らしめたいのだろう。

 ラウロ様は殿下を苛立たしげに見つめると、私の方に向き直った。


「すまない、ジュスティーナ嬢。少しだけ外に出てくるから待っていてくれるか」

「は、はい」

 私が答えると、ラウロ様は申し訳なさそうに眉を下げる。それから心底嫌そうな顔でコルラード殿下と共に会場を出て行った。
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