妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 二人の背中を見送りながら、私は不安に苛まれた。

 ラウロ様は大丈夫だろうか。

 コルラード殿下は一体何の用があって彼に話しかけてきたのだろう。ご兄弟とはいえ、殿下はラウロ様に躊躇いなく剣を向けられるような人だ。

 またコルラード殿下がラウロ様に危害を加えようとしたらどうしようと不安になってしまう。
 

 やっぱり私もついて行けばよかったかもしれない。今からでも追いかけようと考え、会場の外に出る。

 すると、廊下を歩いて少し奥まった通路に入ったところで、突然肩を掴まれた。


「ジュスティーナ、久しぶりだな。こんなところで何をしているんだ?」

 顔を向けると、そこにはにやにや笑うルドヴィク様がいた。

 今日は嫌な人にばかり話しかけられるなと思いながら、言葉を返す。

「お久しぶりです、ルドヴィク様。大した理由ではありませんわ。申し訳ありませんがその手を離していただけませんか?」

「なんだ、冷たいな。俺たちは婚約者だろう」

「元婚約者ですわ。ルドヴィク様、とっくにフェリーチェを新しい婚約者に代えたのではなくて?」

 私がそう言うと、ルドヴィク様は苦々しい顔になる。

「すぐにでもそうしたいところなんだが、色々問題があるんだ」

「それは大変ですこと」

 冷めた思いでそう言ったら、ルドヴィク様は眉間に皺を寄せた。しかし、なぜか突然にこやかな表情になる。


「それにしても、今日はラウロ・ヴァレーリと一緒じゃないんだな。もうフラれたのか? あんな醜い痣のある男にまで捨てられるなんて気の毒に」

「失礼なこと言わないでくださいます? ラウロ様はルドヴィク様よりずっと素敵な方ですわ。それに、今はラウロ様が人に呼ばれて少し離れただけですから」

「お前、随分可愛げがなくなったな」

 にこやかになったルドヴィク様の顔が再び険しくなる。

 そういえば、婚約者時代はルドヴィク様に何を言われてもろくに言い返せなかったのに、今日は無意識に反論していたことに気がついた。

 しかし、ルドヴィク様に可愛げがあると思われても嫌なので、よしとすることにする。


「ルドヴィク様こそ、今日はフェリーチェが一緒じゃないのですね」

「フェリーチェとは現地で待ち合わせすることにしたんだ。お前に話があったから」

「私に?」

 何の話かと警戒すると、ルドヴィク様は軽やかな口調で言った。

「一人で会場から出てきてくれて助かったよ。ジュスティーナ、お前の無礼な行いは全て許してやる。契約石を割ったのは衝動的なものだったのだろう? 再婚約は出来ないが、妾くらいにはしてやろう。だから将来はうちの別邸に住んで、ティローネ領の農地で働くといい」

「……は?」

 ルドヴィク様は腕組みして、自信満々に言う。

 一体、なぜそんな話になるのだろう。私はルドヴィク様との縁が切れてせいせいしているのに。妾なんて冗談じゃない。

 私は呆気に取られたまま、どうにか答えた。
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