妹ばかり見ている婚約者はもういりません
 しかし、私はラウロ様の言葉にうなずくことが出来なかった。

 国王様の言っていることは何も間違っていないのだ。私は本来ならラウロ様のそばにいられる人間ではない。

 ラウロ様に会えなくなるなんて嫌だ。

 けれど、この場でなんと答えたらいいのかはちゃんとわかっている。

 陛下のおっしゃる通りにしますと、もう身の程知らずにラウロ様に近づきませんと、そう伝えなければならない。それが正解なことくらい私にも理解できる。


「……ラウロ様、まだお話の途中ですわ。私はお二人の質問にまだ答えていませんの。どうかお座りになってください」

「ジュスティーナ嬢……」

 私がかすれた声でどうにか答えると、ラウロ様は悲しそうな顔になる。やがて私に出て行くつもりがないのを悟ったのか、力なく席についた。

 私は改めて国王様たちの方に向き直る。彼らは満足げにこちらを見た。


「ローレ嬢。君の答えを聞かせてくれるね?」

 国王様は顔の前で両手を組み、あくまで穏やかに尋ねてくる。

 胸がきりきりと痛んだ。

 約束してしまったら、もう今までのようにラウロ様のそばにいることはできなくなる。

 温室で並んで植物を眺めることも、同じ馬車で登校することも、パーティーに一緒に参加することもできない。


 楽しかったなと今までのことを思い返す。時間にすると数週間ほどのことだけれど、私にとって忘れられない日々だった。

 夢を見ていたと思えばいいのだろうか。

 ラウロ様の呪いが解けるまでの間だけの素敵な夢だったと。そうだ、私はもう目を覚まして、現実に戻らなくてはいけない。

 だってどう考えても私よりも、隣国のお姫様がそばにいるほうが、ラウロ様にとっていいことだもの。


 私は国王様と王妃様に向かって微笑んだ。

 もうラウロ様には近づきませんと言おう。それがフォリア王国のためにも、ラウロ様自身のためにも最適なのだから。

「国王様、王妃様……」

 お二人の表情が緩む。横でラウロ様の止める声がしたけれど、私はそのまま二人に言った。


「先程、どんな褒美でもくださるとおっしゃいましたよね?」

 私が言葉を発した途端、部屋がしんと静まり返った。

 自分の口から思っていたのと違う言葉が出てきて、私は慌てて口を押さえる。

 一体私は何を言っているのだろう。
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