母の世界のTKG
 翌朝、朝食の席でオリビアは裕也に話しかけられた。

「君はこれからどうしたい?」

「えっと……帰りたいのですが、帰り方がわからなくて」

「じゃあ、翔の部屋に住むといい」

「はあ!?」

 オリビアの隣で納豆を混ぜていた翔が目を丸くした。
 彼も聞いていなかったらしい。

「オリビアちゃんは、行方不明だった姉が海外で産んだ子で、両親は事故で亡くなった。だから、叔父である僕を頼って日本に来た……ということにする」

「まあ、だいたい合ってるしね」

 裕也の妻が鮭の皮を箸でつまみながら言った。

 オリビアは聞きたいことがありすぎて、言葉が出ない。

 翔の部屋とは、最初に会った、人であふれていたシブヤという場所のことなのだろうか?
 そこで私は何をさせられるのか?
 あの魚の皮は、本当に食べられるものなのだろうか?

「公的な手続きは、僕の方でやろう。姉の失踪について、この町の大人なら皆知っているし、これでも役場のちょっと偉い人だからね。どうにかなる」

「なんで俺の部屋なんだよ」

「世間を知らない若い女の子を、こんな田舎に閉じ込めておく意味はない。この田舎で異端者が好奇の目にさらされるのは知っているだろう? だったら、広い世界で学んでおいで。友達を作ったり、知らないことを知って、楽しんでくるんだ。そして、この世界で生きるための力をつけておいで」

 オリビアはぽかんと叔父を見上げた。
 ああ、この人は本当に母の弟だ。
 優しい眼差しも、背中を押す力強さも、母にそっくり。

「ありがとうございます、裕也叔父さん」

「いいよ。もう一生会えないと思っていた姉の忘れ形見に会えて、僕は嬉しいんだ。翔、帰る前にじいさんばあさんの墓参り、一緒にしてきて」

「はいよ」

 翔は頷いて朝食を続けた。
 オリビアも箸を持ち直して茶碗を手に取る。

 きっと、ママもこんな気持ちだった。

 新しい世界への期待に胸をときめかせながら、オリビアは最後の一口を飲み込んだ。
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