絶対零度の王子殿下は、訳アリ男装令嬢を愛して離さない
 隣にいたもう一人の生徒がジョシュの肩越しにひょ っこりと顔をのぞかせる。こちらは、あっちこっちに跳ねる赤毛が目を引く幼さの残る青年だ。大きな目をぱちりと瞬かせて興味津々にセレナを見つめた。

「そう、だけど……君たちは……?」
「僕はギャスパー・ブランシャール。家格は侯爵。こっちは、幼なじみのジョシュ」
「ポンス侯爵家のジョシュアだ。……その、不躾な発言だった。気を悪くしたよな。無礼を許してほしい」
「いや、許すもなにも、気にしていないから」

 深窓の令息と揶揄されているのはセレナも知っていた。セレナだとバレるリスクを減らすために、学校は必要最低限しか出席しなかったし、社交界もおろそかにしていたらいつの間にかそんなあだ名がつけられてしまっていた。
 ”女みたいに綺麗な顔”と言われていることは知らなかったけれど。

「そうか? お前なかなか話のわかるやつだな! それにしても殿下と同室なんて、ラッキーなんだかアンラッキーなんだか」
「ラッキーだって思う人なんて、出世狙ってる人くらいじゃない?」

 ギャスパーの意見に激しく同意する。少なくともセレナにとっては幸運とは言えない同室相手だった。

「だよなぁ……、なんせ“絶対零度のブルーアイ”だもんなぁ。……なんだ知らないのか?」

 呆れたような目を向けられて、セレナはおずおずと頷いた。社交場に顔を出さないためそういった噂には弱いのだ。

「殿下は、極度の人嫌いで有名でいつも無表情で、顔が整ってるせいでそれはそれは青い瞳が恐ろしいくらいに冷たいんだと」
「その瞳に睨まれただけで凍り付いちゃうから、絶対零度って言われてるんだって」とギャスパーが付け足す。

「そうなんだ……」

 アンリの人となりについては授業では習わなかったため、初耳だった。それを聞いて余計に気が重たくなる。
 でも、人嫌いだと言うなら好都合かもしれない、という考えが同時に頭をよぎった。触らぬ神に祟りなしで、極力関わらないように空気のように大人しくしていれば問題ないのではないかと。そうであってほしい、と胸の裡で願うセレナ。

「まっ、頑張れよ、カイル」
「う、うん、ありがとう」
「これから三年間よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」

 人懐っこいギャスパーとぶっきらぼうなジョシュアに手を差し出され、順番に握手を交わした。

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