Existence *
「新庄さん、お久しぶりでーす」


奥に入って行くと、カウンター前にある鉄板の前に居る男の人に優香が声を掛けた。


「おぉ、優香久しぶり。なんや、今日は旦那とデートか?」

「あはは。新庄さんやめてー!旦那違うし、翔やし」

「え、マジで翔?物凄い男前連れてきたなーって見てもたわ」

「でしょ?でも私の旦那の方がもっと男前です」


その言葉に新庄さんって人が笑うと、俺までも苦笑いになる。

それに俺の事を知った風に言うこの人はいったい誰なんだろうと。


「一番端空いてるから座り」

「はーい。ありがとうございます」


座ると同時に目の前に水が置かれる。

お礼を言って水を口に含むと、新庄さんは俺をみて笑みを浮かべた。


「大人になったなぁ。…こうやって見ると百合香に似てるわ」

「…え?」


思わず小さな声が漏れる。

お袋の名前が出た途端、驚いて思わず目の前の新庄さんをジックリ見てしまった。


「アンタは昔の事なんかまーったく眼中にもなかったし興味もなかったもんね」

「……」

「百合香さんの幼馴染の新庄さんだよ。ここの店の名前も百合香さんが残していったんだよ」


はい?お袋が?

視線を新庄さんの後ろに向けると黒光りのタイルに彫られてあるAmitieと書かれ、その周りが百合の華で覆われている。

思い出したようにハッとしたのはその名前ではなかった。

むしろその名前で思い出せることは何一つなかった。

思い出したのは目の前で焼かれているステーキの肉。


「もしかして、陽ちゃんって呼ばれてました?」


記憶が記憶を探る。

昔の薄い記憶に俺は口を開くと新庄さんは顔いっぱいに笑みを作った。
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