君が大人になった時、もしまだ俺のことが好きだったなら・・・
カリカリカリカリ。

ノートに向かう小林のつむじを見つめては、再び沸いてくる邪な思いを追い払うべく、小林に背を向けて病室の窓を眺めた。

シャーペンの音と隣のベットから聞こえるはしゃぎ声を聞きながら、薄どんよりとした空をぼーっと見つめた。

「先生?」
「ん?」
振り返って小林の顔を見ないようにノートを見た。

「・・・やっぱりすごいね」
「なにがだよ?」

「頭良くて」
「そりゃこれでも数学教師だからな。
これ出来ないと仕事にならないだろ」

「そりゃそうか」
「ここまではあってる。
ほら、続き」
「はーい」

カリカリカリカリ。

「先生ー?」
「んー?」

カリカリカリカリ。

「手術しないことにした」

カリカリカリカリ。

「・・・・・は?なんつった?」

「先生、喋り方が『つった』とか言っちゃだめじゃ「今、何て言った?」」
「ははッ、言い直すんだ」

「小林」
「・・・・・・」

「手術、しないのか?」
「・・・・・・うん・・・」

「・・・・なにがあったんだ?」
「・・・・・・・・」

「小林?」

小林はぽろぽろと涙を零れさせ始めた。
「自分でもどうしたらいいのか分かんないんだよ・・・」
小林はしゃっくりをあげながらゆっくりと話し続けた。

「バレーしたいけど…このままじゃ試合に出れない・・・みんなうまいもん・・・後輩も入って来るし・・・手術してリハビリ頑張ったら今まで通りにプレーできるようになる。
でも、3年だから、引退までに間に合うかな?
・・・い・・・今までみたいにプレーできるかな?また強打、打てるかな?・・・恐いよぉ・・・・」
「うん」

俺は何度も頷きながら、小林の話を聞いた。

「昨日、みんなが、一緒にバレーしようって言ってくれて・・・嬉しかったけど…悔しいって思ってしまって・・・それも嫌で‥‥仲間なのに…羨ましくて・・・でもみんなとバレーしたくて・・・今度こそ全国行こうって・・・みんなで・・・ううう」
「うん」
ボロボロと泣きながら話す小林の頬をハンカチで拭いた。

「来年は弟も高校受験だし・・・手術代もたくさんかかっちゃうし・・・特待生じゃなくなっちゃうし‥‥。

どうして…どうして怪我しちゃったんだろう?」
「うん」

小林は自分の心の中をさらけ出すかのように、思いつくがまま話しているようだった。

俺は小林の震える手を握りしめ、ただ頬を伝う涙を拭きながら、頷くことしかできなかった。

高校時代にバスケを諦めた俺は、同じ状況下にある小林に何が言えるだろうか?
俺はなんと言って欲しかったのだろうか?
ゆっくり決めるには時間がなさすぎる。

「・・・先生・・・」
「ん?」
「バレーがしたいよぉ・・・。みんなで・・・みんなと・・・バレーがしたいよぉ。うううう」

あの時、一緒に行った病院が違ったら何か変わっていたのだろうか?

周囲の目を気にして小林を避けていたけれど、もっと一緒にいて膝の話とか聞いていたら異変にもっと早く気付いていたのだろうか?

そしたら、こんな風に大怪我になることなく、次の試合を迎えることができたのだろうか?

・・・いや。違う。

俺は首を振った。

「小林」

泣き続ける小林にゆっくりと語りかけた。

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