花に溺れ恋に純情~僕様同期御曹司の愛が私を捕らえて離さない~
 いけない。泣けてきてしまう。涙をハンカチでおさえつつ、店を出る。すると、サイコロ状の石畳の向こうに運河と、倉庫を思わせる建物群が迎えてくれる。見るからに美しい、優美な光景に、こころが浄化される。

 とぼとぼと運河のほとりを歩いていると自分の気持ちが更にすっきりしていくのを感じる。ああ……あなたに会いたい。

 あんな手紙をよこしておいて。同じ会社に入社しておいてずっと知らぬふりを貫いてきたあなたのことがちょっぴり、憎らしい。知っていて欺かれたかのようで。……悔しい。

 あなたはあんなにも素晴らしいマンションに住む天下の財閥の御曹司で。

 私は、ただの庶民に過ぎず。父親は小説家崩れのアルコール依存症で母の勤労で生活がなんとか成り立っている。……釣り合うのかこれ。いかん。実写版花男に思えてきたわ……。

 戸樽でホテルを取るのは難しく、ま、移動して漫喫とか行けばどうにかなるさ。

 ここを離れる前にもう一度、見ておきたいものがあった。

 *

 そこは、ロープウェイで辿り着く山のてっぺんにある場所。

「綺麗……」

 ダイヤモンドを散らしたようなきらびやかな夜景が目の前に広がる。あまりの美しさに、息をのむ。
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