シンデレラは豪雨の中で拾われる

この出会いに名前をつけるなら、


(終わった…)

 東京での取引先との打ち合わせを終え、ビルの出口を出た瞬間、私は呆然と立ち尽くした。

 ついさっきまで、ただの曇り空だったはず。それらのに、ものの数分で天変地異のような豪雨に見舞われていた。
 『バケツをひっくり返したような』なんて生易しい表現じゃない。雨粒が痛いほどの勢いで地面を叩きつけ、視界は真っ白だ。地方都市で働く私には、この東京という巨大な街が、突然牙を剥いたように感じられた。

 慌てて折り畳み傘を開いたけれど、横殴りの雨の前では、もはや意味をなさない。
 地味な紺のスーツは、あっという間に水を含んで重くなった。日帰り出張の予定だったから、今日の荷物は小さなビジネスバッグ1つだけ。まさに絶望。それに尽きる。

 何とか東京駅までたどり着いた私は、電光掲示板を見上げるなり第二の悲劇に見舞われる。

  『全線運転見合わせ』

 赤い無情な文字が、私の疲れた瞳を焼き付ける。大雨で沿線が冠水したらしい。

(どうしよう…。私、ホテル予約してない……)

 金曜日の夜だ。
 この大混乱の中、空いているホテルなんてあるはずがない。あったとしても、私のささやかな給料で泊まれるようなところではないだろう。

 ずぶ濡れになったスーツが、肌に張り付いてひどく冷たい。寒さだけじゃない。見知らぬ大都会の駅の片隅で、1人きり。家に帰れないという強烈な心細さが、私を支配した。

(私…一晩中、ここで過ごすの…?)

 孤独と不安の波が、激しい豪雨のように、私の心に押し寄せてきた。
 私は、人波から逃れるように壁際に身を寄せ、震えるしかなかった。
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