弟たちは、恋のキューピッド
3章 距離が近づく夜

眠りに寄り添う

「うとうとしてる…」

琉久が、ぬいぐるみを抱えたまま、ソファで目をこすっていた。

「琉久、そろそろ寝ようか」

莉瀬が声をかけると、ソファでぬいぐるみを抱えていた琉久が、ぷいっと顔をそむけた。

「やだー!まだあそぶー!」

「もう遅いよ。明日も早いし…ね?」

「やーだー!!」

琉久はソファに寝転がって、足をばたばたさせ始めた。

「琉久~…」

莉瀬は苦笑しながら、そっと抱き上げる。

「湊くん、ちょっとごめんね。寝かせてくる」

「うん、大丈夫。行ってらっしゃい」

莉瀬は琉久を抱いたまま、寝室へ向かった。

ベッドに寝かせても、琉久はごね続けた。

「まだあそぶのー!ぬいぐるみバトルのつづきするのー!」

「ふふ、じゃあ…一回だけ目を閉じてみよっか。そしたら、夢の中でバトルできるかもよ?」

「ほんとに?」

「ほんと。ねえねも一緒に寝るから、安心して」

莉瀬はベッドに腰を下ろし、琉久の隣に横になった。

小さな手が、ぎゅっと彼女の服の袖をつかむ。

「トントンして」

「はいはい、トントンね」

莉瀬は、琉久の背中をやさしくトントンと叩きながら、子守唄のように小さな声で歌を口ずさんだ。

琉久のまぶたが、少しずつ重くなっていく。

でも、それと同時に、莉瀬のまぶたもゆっくりと落ちていった。

——ちょっとだけ、目を閉じよう。

——すぐ戻るから…

そう思ったのに、琉久のあたたかさと、部屋の静けさに包まれて、莉瀬の意識はふわりと遠のいていった。

トントンの手が止まり、呼吸がゆっくりと深くなる。

琉久は、すでに夢の中。

莉瀬も、その隣で、静かに眠りについた。

髪が枕に広がり、頬はほんのり赤く、唇はすこしだけ開いていて—— まるで、子どもを守るように、そっと寄り添っていた。

そして、しばらくして。

「莉瀬ちゃんー?」

湊が、そっと寝室のドアを開けて、声をかけた。

返事はない。

ベッドには、琉久と莉瀬が並んで眠っていた。

その姿を見た瞬間、湊の胸が、きゅっと締めつけられる。

——ああ、かわいい好きだ。

——こんなに、優しくて、あたたかくて、まっすぐな人を。

湊は、そっと近づいて、しゃがみ込んだ。

莉瀬の肩に、その辺にあった布団を静かにかける。

その手が、少しだけ震えていた。

「…かわいい」

誰にも聞こえないように、そっとつぶやいた。

言葉にしたら、全部あふれてしまいそうで。

だから、今はまだ、そっと見守るだけ。

湊は、もう一度莉瀬の顔を見て、ふわっと笑った。

——いつか、ちゃんと伝えたい。

——そのとき、君が笑ってくれますように。

静かな夜。 湊の“好き”は、そっと布団の中に置いていかれた。
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