"推したい"婚約者

2章「vs後輩」_11話

「我々と実技訓練を行ってくれませんか?」

班室に乗り込んできたのは、現在仮配属されている軍学校2年生であった。なかにはエゼリオ班のロザリーや、昨日夕飯前に会った顔ぶれが並んでいる。
誰もが鋭い目でアンジュを睨む。
ツキヨがアンジュを庇うように前に立つ。

「訓練とは事前に日程に決めておくものだと思っていたけど」

「指導員に相談したところ、アンジュさんが受けるなら特別に時間を作ると」

一体誰が許可を出したというのか。ツキヨは鋭く目を光らせた。とりあえず彼女たちが訴える訓練の詳細を確認すると、絶句する内容であった。

・訓練時間、参加者人数無制限(最低30人は参加意志有)。

・戦闘方法自由。

・参加者はアンジュを倒せば、勝ち。

・アンジュは参加者を全員倒せば勝ち。

簡単に言えば「大人数で敵1人を倒しましょう」という内容だ。これほど無茶苦茶な"訓練"は聞いたことも、体験したこともない。

「アンジュさんは新人時代、1人でも20人程度は倒せたとうかがいました。今は正規兵士。魔術にも先頭にも特化しているならば、時間と人数のハンデはあっても良いかと」

隠そうとしない悪意に、呆れ返ったツキヨは訓練実施を副班長として拒否する。上司の1人として、部下を危険な訓練に参加させることは認められない。

「こちらも暇じゃないの。なにより馬鹿な訓練には参加しない。中央区はそれが当たり前でもね。それに彼女は今日体調が優れないから」

副班長の言葉が、アンジュの心にも突き刺さる。優しい言い方が逆に傷を抉り、ひっそりとアンジュは落ち込みを深くする。

しかし上官に断られても、新人たちは引き下がらない。

「軍人として、いつ戦時になるかわからない職業につきながら、体調不良で対応できないなど意識が欠けているのではないですか?」

「おぉ」

思わず驚嘆の声が出てしまった。まさか食い下がると考えていなかった。
同じく引き下がると思っていたツキヨも目を丸くする。
そして目線をアンジュに向けた。一体何があったのか。美しい黄金色の瞳が雄弁に語りかけてくるが、アンジュは曖昧に笑うことしかできない。ロザリー以外、会ったのは昨日が初めてだ。アルフレードに食事を断られたのが原因か、はたまた邪魔した存在として恨まれている可能性は高い。だが翌日、指導員まで巻き込み、訓練強行を移させる理由に心当たりがないのだ。

「君は?実務時間を割いてでも、この訓練に意味があると?アルフレードや班長の許可は?」

アンジュは、後ろで佇むロザリーに問う。アルフレードや他の班員が許可するとは思えない。
赤髪の彼女は鋭くアンジュを捉える。焦茶色の瞳からは燃える火が見えてきそうだ。

「班長には後で許可を得ます。私は…あの人が認める貴女に、興味があります」

「………なるほど」

(あの人なら真っ先に止めただろうに)

アンジュは口を閉じる。彼女らとこれ以上話したところで状況は変わらないと判断した。
さて、どうするか。

「そうか、そうか。とにかく"訓練"がしたいと。今年の新人は特に熱心だなぁ」

考えあぐねていると、班長が話の輪に入ってきた。何度も頷き、顎を指で掻いている。
アンジュとツキヨは顔を見合わせる。こういう場合の班長は、大抵ろくでもない事を考えているからだ。「うーん…よし」などと"分かりました"ポーズをわざとらしく取る彼の隣で、ふわりと漂う風の精霊が妖艶に笑っているのが証拠だ。アンジュは反射で顔を顰める。

「ブルナー」

「はい」

「班長命令だ。訓練に全力に当たれ。それから副班長は中央部全体に連絡を入れろ。30分後、中庭で特別訓練実施だとな」

(あぁ、やっぱり)

ツキヨとアンジュはため息をついた。
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