推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

2章「vs後輩」_12話:特別訓練という名の修羅場①

訓練参加の準備を済ませたアンジュは、愛用の武器である伸縮可能の鉄製の棒を持って、中央総本部の中庭、その端にいた。

訓練参加者対アンジュ。訓練のルールは、後輩たちが決めたものからウィリアムが少し変更を加えた。


・訓練は新人に限らず、誰でも参加可能。

・参加者の勝利は、アンジュを中庭を囲む線から出すか、または完全に動けなくなくすること。

・アンジュに倒され、線から出されても、立ち上がるなら幾度でも挑戦してもいい。

・アンジュはとにかく参加者を全て倒す。参加者が全て倒された場合、10カウントい以内に追加参加者がいなければ、アンジュの勝利。


訓練時間の制限はなく、武器使用などの自由な戦闘スタイルの変更はしていない。より難易度が上がった訓練内容となった。

急遽行われることが決まった特別訓練に、現在集まっているのは100人ほど。途中参加も可能なことから、まだまだ増える可能性がある。アンジュが何人を相手取ることになるかは、訓練終了後にしかわからない。ざっと見たところ、アンジュが見知った顔はいなかった。つまり彼女の同期は参加していない。どちらかと言うと、後輩や新人の参加率が高いように見受けられた。
中でも目立つのは、2メートルを余裕で越す背丈に、アルフレードの2倍屈強な体つきをしている青年だ。昨晩アルフレードの話に出てきた"期待の新人"だろう。鬼種と人間の混血で、軍学校1年生だけにも関わらず1対1ならば熟練兵士を圧倒する力とた技を持つと言う。期待の新人ははアンジュと目が合うと、背筋を伸ばし頭を下げた。礼儀正しい性格も聞いていた通りだ。
特別訓練を聞きつけ、中庭を取り囲むギャラリーもできている。
アンジュの気持ちはひどく重くなっていた。

(思ったより中央部配属者は時間に余裕があるのだな)

参加人数を半分程度に考えていたアンジュ。集まった面々や厚い雲が流れる空をぼおっと眺めながら時間を潰していた。

(これが"人事交流と地方防衛技術のノウハウを中央兵士への教授"って事なのかな?)

訓練の主役が現実逃避している間にも、人はどんどん増えていく。

「開始まで、あと5分」

審判をつとめる副班長・ツキヨの声が響く。
訓練を許可した班長(ウィリアム)は壁にもたれ掛かり、訓練開始を笑顔で待っている。遠足前の子供のように楽しげな笑みだ。



ざわざわと、ひそひそと。

妙な熱が集まり、高まっていく。



「開始まで、あと1分」

時間が来る。
アンジュは一度深く息を吐き出すと、広場の中心を目指して、歩く。
恨み、嫌味、妬み、期待、好奇心…。様々な感情を抱いた訓練参加者たちが、アンジュを囲う。その中には、参加者らが契約する精霊や使役する獣の姿もある。彼らはアンジュを見るなり、申し訳なさそうな、または不安気な表情を浮かべている。

(彼らは負の感情に引っ張れやすいが、大丈夫だろうか)

アンジュは首を振った。これから全てを倒さなければならないのだ。敵となる自分が彼らを心配する資格はないと意識を切り替え、武器を構える。

「アンジュ・ブルナー!」

ウィリアムが声を張る。
アンジュは彼の言葉に耳をすます。彼女の真っ赤な瞳は訓練参加者を向いたまま。1人、1匹、1体ずつ、捉えている。

「殺し以外は全て許す!責任も取らせる!」

広場に集まった全員に聞こえるように、彼は声を張り上げる。

「だから全て、潰し切れ!」

「訓練開始!」

ウィリアムの言葉が終わると同時に、訓練開始の号令がかかった。
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