隣の年下くんがダンジョンの同居人につき、リアルでも溺愛始まりました


 蛇口から流れる水がシンクを叩く音が響いている。しばらくのダンマリの後、「烈火さんは本当は偽装恋人とかじゃなくて、実は本当の恋人になりたいって思ってるんじゃないんですか」と静かに尋ねられた。

 全く、みんなどうかしている。

「峯岸さんとは、形だけの関係だから」

「父親のためってやつですか?」

 父親の機嫌を気にしているのは間違いない。でも最近は、峯岸と父のことを話せる時間が楽しみだったりする。父のためだけと言い切るのは少々不純でもあったりする。
 出しっぱなしのままの蛇口の水を止めた。五百城は何かを考えているかのようにきゅっと唇を結んでいる。
沈黙がたまらなくなり、「ムギくん?」と尋ねた。

「じゃあ、僕が烈火さんの父親に好かれたら僕と付き合ってくれるんですか?」

 五百城の言葉を理解できずに「え?」と聞き返してしまった。
 五百城が、私の父に好かれたら付き合う?

「そ、それはあまりにも現実的じゃないでしょ」

 五百城の発言は、突飛すぎる。そもそも五百城と父に接点はないわけで、私と付き合うということもありえないわけで、それに五百城が私を好きなはずがないわけで……。私の思考を止めるように、彼の腕が私の手首をきゅっと掴んだ。五百城の濡れた手から水が伝わり、私の指先から水滴が滴り落ちてゆく。

「もしそうなったら、僕とあの人とどっちと付き合うんですか?」

ブブッとスマホが振動する。スマホへと視線を落とすと、五百城はそのスマホを奪った。

< 164 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop