隣の年下くんがダンジョンの同居人につき、リアルでも溺愛始まりました
蛇口から流れる水がシンクを叩く音が響いている。しばらくのダンマリの後、「烈火さんは本当は偽装恋人とかじゃなくて、実は本当の恋人になりたいって思ってるんじゃないんですか」と静かに尋ねられた。
全く、みんなどうかしている。
「峯岸さんとは、形だけの関係だから」
「父親のためってやつですか?」
父親の機嫌を気にしているのは間違いない。でも最近は、峯岸と父のことを話せる時間が楽しみだったりする。父のためだけと言い切るのは少々不純でもあったりする。
出しっぱなしのままの蛇口の水を止めた。五百城は何かを考えているかのようにきゅっと唇を結んでいる。
沈黙がたまらなくなり、「ムギくん?」と尋ねた。
「じゃあ、僕が烈火さんの父親に好かれたら僕と付き合ってくれるんですか?」
五百城の言葉を理解できずに「え?」と聞き返してしまった。
五百城が、私の父に好かれたら付き合う?
「そ、それはあまりにも現実的じゃないでしょ」
五百城の発言は、突飛すぎる。そもそも五百城と父に接点はないわけで、私と付き合うということもありえないわけで、それに五百城が私を好きなはずがないわけで……。私の思考を止めるように、彼の腕が私の手首をきゅっと掴んだ。五百城の濡れた手から水が伝わり、私の指先から水滴が滴り落ちてゆく。
「もしそうなったら、僕とあの人とどっちと付き合うんですか?」
ブブッとスマホが振動する。スマホへと視線を落とすと、五百城はそのスマホを奪った。