君の姿が変わっても....

一緒に走るはずだった

ある小学一年生の日が暮れ始めた放課後。

私たちは他愛もない会話を交わしながら走ることが日課。

そのため一日の疲労が溜まり、珍しく今日は、友達の後をつける形になっていた。





数分経ち体力に限界を迎えた私は、その場に座り込む。

私の様子に気付いた二人も、隣に身を寄せてくる。

強気だった君でさえ、普段より息を切らせているのが伝わると同時に、一つの疑問が浮かび上がった。

「ねぇねぇ、ショウ」

「ん?」

片手に握っている、君の好きな炭酸飲料を飲みながら返事をする。

「どうして..オリンピック出たいの....?」

「....」

質問を聞いた君は、飲むのを辞め、私の隣に飲み物を置く。

そして不思議そうな表情を浮かべながら、こちらを向いてきた。

身を寄せ合っていることもあり、顔の距離が近い。

あの頃の私は、「恋愛」というものに興味がなく、何の感情も示さないまま彼の口元が動いた。

「昔からオリンピック選手目指したいって夢あったし、何より走ることに関しては誰にも負けない自信あったからなぁ....」

「ショウの速さなら納得出来るわ」

彼の言葉を耳にしたイスズが、くすりと笑う。

「じゃあどうしてそれほど自信が持てるの....?」

次に浮かんだ疑問を口にすると、彼はそれに答えず

「ナオ急に質問攻めしてどうしたんだよ?」

可笑しそうに笑った。

その笑顔で自分の脳内に浮かんでいた疑問が全て消え去る。

だから私は今感じている本心を二人に打ち明けることにした。

「いやだって....。ショウはオリンピック選手でイスズはパティシエの夢があるでしょ?」

「えっ凄。お前パティシエ目指していたのか!?」

「そうよ。私にピッタリだと思わない?」

ショウに褒められたことが嬉しかったのか、彼女は腕を組み、意気揚々としていたが

「おぅ、似合ってると思うぜ。違う意味で有名なパティシエになりそうだな」

「あんたそれどういう意味よ!」

イスズが勢いよくショウに回し蹴りを入れる。

普段の私なら、その会話に加わろうとするのだが、聞き流してしまった。

それどころではなかったのかもしれない......。

そんな私を不審に感じたのか、彼は先程の態度を改め、私の表情を伺う。

「ナオ、それで?」

「....」

「私ね、将来の夢なんて何も無いから....。二人がとても羨ましいなぁって......」

そう....。

皆は「将来の夢」があるのに対し、私には何もない。

好きなことも....得意なことも....。

「ナオならきっとこれから見つかるわよ。無理せずゆっくりで大丈夫」

イスズの言う通り、焦って探す必要はない....。

これから見つければいい....。

そんなこと以前から知っていた。

でも......

「もしこれから先も、見つからなかったらどうしよう。何だか私だけ置き去りになりそうで....。不安になっちゃって......」

そんなこと話したって、探すのは自分。

見つけるのも自分自身。

最終的に決断するのも私自身....。












本当に情けない.....。

沢山の感情が入り混じった結果、その言葉が脳内に響いた。

「....」

数秒、二人は何か考え込んでいるような表情を見せた。

恐らく、私をどう慰めの言葉をかけるか悩んでいるのだろう....。

迷惑かけている......。

気遣いはいらないと伝えようとした時

「よし、ナオの気持ちよく分かった!」

「えっ....?」

ショウの表情が一変し、私に白い歯を見せる。

どんな心遣いの言葉をかけてくるのだろうか....。

そう思っていたが彼は、予想外の提案をしてきた。




「ナオも俺と同じ『オリンピック選手』目指そうぜ!」




「....」

「おりんぴっく....せんしゅ?」

驚きのあまり、舌がもつれた。

それは私だけではない。

「な、なんでそういうことになるの....?」

イスズも驚愕した表情を見せ、いかにも目が飛び出そうだ....。

そんな私達の様子をお構いなしに続けた。

「やりたいことがなければ、とりあえずオリンピック選手目指せばいいだろ?ナオって運動出来る方だから、俺みたいに練習してればきっと夢じゃないぜ!」

ショウの言うことに少し疑いの目を向けてしまう。

『オリンピック選手』なんて容易に叶うものではない....。

身体能力に関しては確かに、高いほうかもしれないが......。

「そっそうかなぁ....」

彼の提案に、曖昧な返事を返す。

「途中で違う目標が出来たなら、それに向かって頑張ればいいし....。それにさ....」

そう言い残すと彼は、少しはにかむように

「ナオとなら心強いし....。まぁ一緒に叶えたいって、内心思っていたからな」

「....」

一緒に叶えたい....

そんな風に思っていてくれていたんだ......

彼の真摯な言葉に私は、ひどく心を打たれた。

また、霧のように霞んでいた気持ちが、まるで陽光がかかったかのように心が晴れやかになった。

その隣にいたイスズも微笑みをこぼしている。

「どうだナオ、二人でオリンピック選手..目指してくれますか....?」

「....」

私自身、もう答えは決まっている。

彼の言葉に力強く頷いた。

「オリンピック選手になれるよう励んでみる。一緒に頑張ろうね!」

そう返ってくると予想していたのだろうか、彼は満開の笑みを浮かべ

「おぅ!」









それから放課後はショウと毎日公園の周りを10周走る。

休日はそれぞれ時間を作ってトレーニングをし始めた。

最初は、練習を投げやりにしてしまいたいほど厳しかった。

しかし今では、それが当然であるかのようにこなして来れるまでに成長した。

「オリンピック選手も...悪くないかもしれないなぁ....」

何度も陸上のオリンピック動画を見返し、いつか自分もここで走りたいと夢をふくらませる日々。

君と一緒ならきっと叶えられる。

二人なら目指すことが出来る。









しかし、そう思っていたのは私だけだったのか。





彼は学校にも公園にも、姿を見せなくなった......。
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