シンデレラ・スキャンダル


アウトレットモールに着いてしばらくしたら、畑中さんが申し訳なさそうに小さな声で「もう少し、リュウたちと離れて歩いてもらっていい?」と言った。その言葉に静かに頷いて、ゆっくりとさりげなく距離をとる。

みんな背が高くて体が大きいから、サングラスをかけていてもとても目立つ。龍介さんはいつもどおり帽子をかぶっていてサングラスをしていないけれど、それでも知っている人が見れば、すぐに気づかれてしまうのだろう。

「綾乃ちゃん、ごめんね。でも、ここらへんは日本人が多いから。ごめん」

「いえ、大丈夫です。わたしこそ気が利かなくてすみません」

彼らと話すときは必ず畑中さんを挟むようにして立ち、疑われることのないように注意する。

畑中さんを挟んで、数メートル後ろを歩く。でも、ショーウィンドウ越しに、ふと彼と目が合った。帽子を目深に被った彼が、鏡越しにわたしを見て、ほんの一瞬だけ口角を上げる。 『大丈夫?』 声には出さないけれど、そう聞かれた気がして、わたしは小さく頷いた。

離れて歩くこの数メートルが、二人だけの秘密の空間みたいで、胸が苦しくなるほど高鳴った。

「綾乃、欲しいものない? バッグとかアクセサリーとか、なんでも」

畑中さんを間に挟んだまま、龍介さんがこちらを見た。

「プレゼントするよ」

「龍介さんには帽子をもらいました」

「いや、そうじゃなくて。もっとちゃんとした」

「たぶん、何をもらっても帽子が一番大切なものになりそうです」

そう伝えたわたしの顔をとても不思議そうな顔をしたまま見つめる龍介さん。

「……どうして?」

「だって、龍介さんともう一度出会えたのは帽子のおかげですから。帽子被ってたら見つけてくれるんですよね? それならずっと被ってます」

おどけながら首を傾げて彼を下から覗き込むと、彼は拳を口に当てて笑った。

「綾乃ちゃんさ、理想的なんだけど」

それまでまともに話していなかった、徹さんが真顔でわたしに向かって告げる。あまりにも突然だったから驚いてその顔を見上げれば、徹さんは「理想のリアクション」と続けた。

「徹……」

「リアクションがいちいち可愛い」

「そんなの言われたことないですよ」

「リュウくんに対する発言とか反応とかが、女の子って感じ」

それは自分でも少しだけ気づいている。相手を翻弄したいとか相手の気持ちを思う通りに動かしたいとか、そんなことじゃなくて、龍介さんの前だと、ただ嬉しくて笑ってしまう。
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