シンデレラ・スキャンダル
「大丈夫です。龍介さんが同じ階にいてくれるだけで、十分安心ですから」

彼は部屋の中を進んでバルコニーの窓を開けた。

「ここでお茶でもしよっか」

「はい。龍介さん、何を召し上がります?」

「俺ね、決まってるの。ルイボスティー」

「へ……」

ルイボスティー。わたしが会社でよく飲むお茶。それは、健康的なお茶。ダイエットのため、美容のためにわたしが会社でよく飲むそのお茶は、男性が飲むイメージはあまりない。

ましてや龍介さんのような風貌の人とは対局にありそうな存在なのに、それを「決まっている」だなんてやはりアスリートだろうか。思わず目を見開いたわたしを、物言いたげな瞳が見つめてくる。

「綾乃ちゃん、今、絶対に似合わないって思ってるでしょ」

「お、思ってます……」

「俺、玄米とかも食べるし、健康オタク気味で」

「……意外すぎます」

どちらかというと、ぷかぷかタバコを吸って健康なんて気にしないと言い退けてしまいそうな見た目をしている。でも、龍介さんからはタバコの匂いなんて微塵も香らずに、香水なのか柔軟剤なのか爽やかな香りがいつも漂っている。

「食材とかさ、結構気にするんだよね。綾乃ちゃんは何飲む?」

「わたしもルイボスティーを。大好きなんです」
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