シンデレラ・スキャンダル
それから少しずつ人が増えていった。勢い良く空いていくボトルたちに、大きくなっていく笑い声。バーベキューパーティーにも来た上原さんたちも参加して、リビングとテラスは人で溢れていく。
飛び交う業界用語、音楽の話、次のツアーの話。彼らが熱く語り合えば合うほど、わたしの周りの空気だけが冷えていく気がする。龍介さんが、メンバーと話しながら豪快に笑う。その横顔は、わたしが知っている「穏やかな龍介さん」ではなく、何万人ものファンを熱狂させる「アーティスト・RYU」の顔だ。
隣に座っているのに、彼との間に透明な分厚い壁があるみたい。一緒に笑っているはずなのに、自分の笑い声がその空間に浮かんでは消えていくよう。
龍介さんと一緒に見たオレンジ色の光が今日も同じように降り注ぐけれど、その輪郭が滲んでいくから、瞳からそれが零れ落ちてしまう前に立ち上がり、逃げるようにして席を立った。庭を抜けて砂浜を進んでいく。
テラスの声が少しだけ届く場所で、ゆっくりと屈んで目の前で動く水面を見つめた。あの場所にいるのは、龍介さんと繋がりのある特別な人たち。
まだ少しだけ熱を持つ砂浜に手を置いて目を閉じると、遠くから近づいてくる足音が聞こえた。その方向に視線を向けると、そこにはいつもとは違う人の姿。
「キレイだね、サンセット」
そう言いながら優くんはわたしの隣にしゃがみこみ、同じように海に視線を向ける。
白い滑らかな肌にさらさらと流れる髪。Legacyの中でも少し毛色の違う彼。リアル王子様、だったっけ。
「うん。本当に綺麗」
「……綾乃さ、龍介さんのこと知らなかったの?」
優くんは、真っ直ぐズバッと核心に触れるタイプらしい。優くんの方に顔を向ければ、真剣な眼差しとぶつかった。どんな顔をすればいいのかわからなくて、少しだけ俯いて首を縦に振る。
「……サングラスに坊主頭の姿しか知らなかったから」
「もう五年前ぐらいから髪伸ばしてるけど、そのイメージ強いよね」
「……そうなんだ」
「普通の女の子ならさ、相手が龍介さんなんて騒いで喜びそうなところだけど。綾乃はさ、芸能人は好きじゃない?」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、黙っていたことがショックだったの?」
問いかけに対して首を横に振る。黙っていたことにショックを受けたわけじゃない。芸能人だから嫌だとかそういうことでもなくて。
飛び交う業界用語、音楽の話、次のツアーの話。彼らが熱く語り合えば合うほど、わたしの周りの空気だけが冷えていく気がする。龍介さんが、メンバーと話しながら豪快に笑う。その横顔は、わたしが知っている「穏やかな龍介さん」ではなく、何万人ものファンを熱狂させる「アーティスト・RYU」の顔だ。
隣に座っているのに、彼との間に透明な分厚い壁があるみたい。一緒に笑っているはずなのに、自分の笑い声がその空間に浮かんでは消えていくよう。
龍介さんと一緒に見たオレンジ色の光が今日も同じように降り注ぐけれど、その輪郭が滲んでいくから、瞳からそれが零れ落ちてしまう前に立ち上がり、逃げるようにして席を立った。庭を抜けて砂浜を進んでいく。
テラスの声が少しだけ届く場所で、ゆっくりと屈んで目の前で動く水面を見つめた。あの場所にいるのは、龍介さんと繋がりのある特別な人たち。
まだ少しだけ熱を持つ砂浜に手を置いて目を閉じると、遠くから近づいてくる足音が聞こえた。その方向に視線を向けると、そこにはいつもとは違う人の姿。
「キレイだね、サンセット」
そう言いながら優くんはわたしの隣にしゃがみこみ、同じように海に視線を向ける。
白い滑らかな肌にさらさらと流れる髪。Legacyの中でも少し毛色の違う彼。リアル王子様、だったっけ。
「うん。本当に綺麗」
「……綾乃さ、龍介さんのこと知らなかったの?」
優くんは、真っ直ぐズバッと核心に触れるタイプらしい。優くんの方に顔を向ければ、真剣な眼差しとぶつかった。どんな顔をすればいいのかわからなくて、少しだけ俯いて首を縦に振る。
「……サングラスに坊主頭の姿しか知らなかったから」
「もう五年前ぐらいから髪伸ばしてるけど、そのイメージ強いよね」
「……そうなんだ」
「普通の女の子ならさ、相手が龍介さんなんて騒いで喜びそうなところだけど。綾乃はさ、芸能人は好きじゃない?」
「ううん、そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、黙っていたことがショックだったの?」
問いかけに対して首を横に振る。黙っていたことにショックを受けたわけじゃない。芸能人だから嫌だとかそういうことでもなくて。