恋愛アルゴリズムはバグだらけ!?~完璧主義の俺が恋したらエラー連発な件~

第28話 最終デバッグ:完璧なアルゴリズムの発見

本の出版から一年後。



 俺──田中優太は、Love Support合同会社の新しいオフィスで重要な会議を開いていた。



「皆さん、お疲れさまです」



 会議室には創設メンバー全員が揃っている。歩美は結婚して姓が変わり、大輔も無事プロポーズに成功していた。



「今日は重要な発表があります」



 俺は深呼吸してから続けた。



「実は……大手企業から買収提案を受けました」







 会議室が静まり返った。



「買収ですか……」



 歩美が驚いた表情を見せた。



「条件はどうなんですか?」



 高橋先輩が冷静に聞いた。



「金額的には、俺たちが一生困らないレベル」



 俺は正直に答えた。



「でも、サービスの方針は先方が決めることになる」



「つまり、俺たちの理念は……」



 大輔が心配そうに言った。



「保証されない」







「みんなはどう思う?」



 俺は意見を求めた。



「僕は……複雑ですね」



 高橋先輩が最初に答えた。



「資金的には魅力的ですが、俺たちが大切にしてきたものを失うかもしれません」



「私も同じです」



 歩美も続いた。



「お金より、私たちの価値観を守りたい」



「俺も反対だ」



 大輔も意見を述べた。



「せっかくここまで来たのに、他人に任せるのは嫌だ」







「静香はどう思う?」



 俺は妻の意見を聞いた。



「私は……優太の判断を信じるわ」



 静香は微笑んだ。



「でも、一つだけ質問があります」



「何だ?」



「優太は今、幸せ?」



「幸せ?」



「はい。Love Support Projectを続けて、幸せを感じてる?」







 静香の質問に、俺は考え込んだ。



「幸せだ」



 俺は答えた。



「毎日、誰かの役に立てている実感がある」



「お金があれば、もっと大きなことができるかもしれないけど……」



 俺は続けた。



「でも、大きくなることが目的じゃない」



「じゃあ、答えは決まってるじゃないですか」



 歩美が微笑んだ。



「私たちの答えは」







 翌日、俺は買収提案を断る連絡をした。



「理由をお聞かせください」



 企業の担当者が聞いてきた。



「俺たちは、お金のためにサービスを作ったわけじゃないんです」



「でも、これだけの金額を断るなんて……」



「価値観が違うんです」



 俺は丁寧に説明した。



「俺たちにとって、ユーザーの幸せが一番の価値なんです」







 買収を断った俺たちに、新しいチャンスが訪れた。



「NPO法人化しませんか?」



 ある社会起業家が提案してくれた。



「営利追求じゃなく、社会貢献を第一にした組織として」



「NPO法人……」



「税制面でのメリットもありますし、何より理念を明確にできます」







 俺たちはLove Support合同会社をNPO法人に転換することにした。



「NPO法人 Love Support Network」



 新しい組織名も決まった。



「営利企業じゃなくなるけど、いいのか?」



 俺はメンバーに確認した。



「大丈夫です」



 歩美が答えた。



「お金より、やりがいの方が大切です」



「俺も同感だ」



 大輔も賛成してくれた。







「10年後、俺たちはどうなっていたい?」



 ある日、俺はチームに質問した。



「全国に支部があるといいですね」



 歩美が答えた。



「各地域で、恋愛や結婚、育児の相談ができる場所」



「国際展開も面白そうだ」



 大輔がアイデアを出した。



「恋愛の悩みは万国共通だからな」



「でも、基本は変わらない」



 高橋先輩がまとめた。



「人と人とのつながりを大切にすること」







 そんな中、優希は2歳になっていた。



「パパ、おしごと?」



 優希が俺のパソコンを指差して聞く。



「そうだよ。パパは困ってる人を助けるお仕事をしてるんだ」



「たすける?」



「うん。恋愛で悩んでる人を助けてる」



 優希には難しすぎる話だが、一生懸命聞いてくれる。



「ゆうきも、たすける!」



「将来、優希も人助けをしたいか?」



「うん!」



 無邪気な笑顔が可愛い。







「そういえば、最近の大学生の恋愛観って変わってきてますね」



 歩美が報告してくれた。



「SNSでの出会いが当たり前になって、恋愛のプロセス自体が変化してる」



「俺たちも時代に合わせてアップデートしないとな」



「でも、本質は変わらないと思います」



 静香が言った。



「相手を理解したい、愛されたいという気持ちは同じ」







 その夜、俺は一人で考えていた。



 これまで「完璧な恋愛アルゴリズム」を探し続けてきた。



 でも今なら分かる。



「完璧なアルゴリズムなんて、最初から存在しなかったんだ」



 恋愛に完璧な答えはない。



 でも、だからこそ美しい。



 不完璧だからこそ、お互いを支え合える。



 エラーがあるからこそ、一緒にデバッグできる。



「それが、本当の愛なんだな」







 俺は最後のファイルを作成した。



【恋愛アルゴリズム Ultimate Edition - 永続的愛のシステム】



```

// 真実の恋愛アルゴリズム

function ultimateLoveAlgorithm() {

// 初期設定

let love = new Relationship();

let errors = [];

let growth = 0;



while(人生が続く) {

try {

// 完璧を求めない

相手を理解しようとする();

自分の気持ちを素直に伝える();

一緒に時間を過ごす();

お互いの個性を尊重する();

困難を共に乗り越える();

感謝の気持ちを忘れない();



// 家族が増えたら

if (子供がいる) {

家族の時間を大切にする();

パートナーと協力する();

子供から学ぶ();

}



// 社会とのつながり

仲間を大切にする();

他者の幸せを願う();

経験を次世代に伝える();



growth++;



} catch (error) {

// エラーは成長の機会

errors.push(error);

一緒に解決策を考える();

より深く理解し合う();

}

}



return {

love: love,

errors: errors,

growth: growth,

message: "完璧じゃないからこそ美しい愛"

};

}

```



実行結果:永続的な愛のシステムが完成しました







 翌朝、俺は家族と一緒に朝食を食べながら未来を考えていた。



「優太、何か考え事?」



 静香が聞いてきた。



「これからの10年のことを考えてた」



「どんな10年にしたい?」



「みんなが幸せになれるような、そんな10年にしたい」



「素敵ね」



 静香は微笑んだ。



「優希も一緒に、みんなで作っていきましょう」



「パパ、がんばって!」



 優希も応援してくれた。







 NPO法人Love Support Networkは、その後も多くの人々を支援し続けた。



 恋愛診断システムは改良を重ね、世界中で使われるようになった。



 恋愛カフェは各地に支部ができ、温かいコミュニティの拠点となった。



 そして俺の本は多くの言語に翻訳され、世界中の恋愛に悩む人々に読まれた。



「結局、俺が作った最高のアルゴリズムは……」



 俺は静香と優希を見つめた。



「家族との時間だったんだな」



 愛に完璧なアルゴリズムは存在しない。



 でも、不完璧だからこそ、一緒に成長できる。



 エラーがあるからこそ、一緒に解決できる。



 それが、俺が最終的に発見した「完璧なアルゴリズム」だった。



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