気まぐれ王子と召使い
「えっと……真堂はその噂をちょっと信じてるって言いたいの?」
「よく言うだろ?火のないところに煙は立たないって。お前が火元じゃないなら、火をつけた奴が他にいるって事だ」
「……そりゃ、噂を作った人が居るだろうけど……そんなの誰か分かんないよ」
「よく思い出してみろよ、山吹。前にも似たような経験があったんじゃないのか?」
似たような、経験。
思い出されるのは、中二の頃の出来事だ。
噂を流され、酷い嫌がらせを受け、その時好きだった人からも拒絶された地獄の日々。
でも、真堂はそんなことは知らないはずだ。
なのに、真堂の目は私の答えをただ待つように真っ直ぐと私を射抜いていた。
「あった、けど……真堂は知らない話だよ」
「なんで俺が知らないと思う?お前と話していく中で、俺が知らなかったことなんてあったか?」
「あったと思うよ、多分……だって真堂は中学一緒じゃなかったもん」
「そうだな、確かに俺達は一緒の中学じゃなかった。でも問題はそこじゃないだろ?俺が知ってる情報を不都合に思うやつが"確かにいた"筈だ。誰だったかな、そいつは」
「真堂が何の話をしてるのか分からないよ」
「知ろうとしない事は罪だよ、山吹。知ろうとする奴だけが救われる権利を得られるんだ」
「だから、何の話を……」
「"いきなり噂が立って、いきなり嫌がらせを受けて、いきなり孤立する"なんて、二度も自然と起こらないんだよ」
これ以上は聞いちゃいけない気がした。
三木雫が水瀬ちゃんを"チワワちゃん"と呼んだ。
世那は水瀬ちゃんを"チワワ"と呼んでいた。
ただ、それだけの事だ。
それがなぜか頭の中でぐるぐると回っている。
黙りこむ私に小さく溜息をつくと、真堂はいつもの笑みを浮かべた。
「そう言えばどこかに移動してる最中だったか。邪魔したな」
「…………ううん、ありがとう……」
私の言葉に今度こそ真堂はなにも返さなかった。
その目は"俺は何もしない、自分でどうにかしろ"と暗に伝えているようにも見えた。