仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
第1章・Scene4 仮面をかぶる音
控室のドアがノックされ、優香と大地はほとんど同時にそちらを見た。
開いた扉の向こうに、スーツ姿の三島が立っている。
その鋭い瞳が、二人の間を一瞥した。
「……次の打ち合わせの準備をしろ。時間は限られている」
低く抑えた声が、部屋の空気を一瞬で引き締めた。
さっきまで穏やかだった大地の横顔が、ぴたりと凍りつく。
優香はその変化を、思わず息を呑んで見ていた。
大地はゆっくりと立ち上がる。
鏡の前を通り過ぎるとき、一瞬だけ映った自分の顔を見て、心の奥がひやりとした。
(……誰だよ、これ)
口角の角度も、まぶたの緩め方も、全部“教わった通り”。
これが「自分」だと教えられて、そうするしかなくて。
気づけば、何も感じない仮面だけが残っていた。
けれど次の瞬間には、もう完璧な笑顔が貼りついていた。
「はい、すぐに向かいます」
滑らかで柔らかな声。
さっき優香に向けて見せた、素の表情などなかったかのように。
――その瞬間、仮面をかぶる音が、確かにした。
三島はわずかに頷き、その背を向けて廊下へと歩き出す。
大地はその後を静かに追う。
扉を出る直前、ほんの一瞬だけ振り返り、優香と視線がぶつかった。
その瞳には、もうさっきまでの揺らぎはなかった。
ただ、完璧に整えられた、“宅麻大地”という虚像がそこにいた。
(……さっきの人は、どこに行ったんだろう)
優香は、胸の奥に静かな痛みを抱えたまま、閉じていくドアを見つめていた。
廊下の奥からは、二人の足音だけが一定のリズムで響いている。
それはまるで、演出された舞台の幕間のようで――どこか冷たかった。
残された控室には、蛍光灯の光と、彼が残したあたたかさだけが、ぽつんと取り残されていた。
開いた扉の向こうに、スーツ姿の三島が立っている。
その鋭い瞳が、二人の間を一瞥した。
「……次の打ち合わせの準備をしろ。時間は限られている」
低く抑えた声が、部屋の空気を一瞬で引き締めた。
さっきまで穏やかだった大地の横顔が、ぴたりと凍りつく。
優香はその変化を、思わず息を呑んで見ていた。
大地はゆっくりと立ち上がる。
鏡の前を通り過ぎるとき、一瞬だけ映った自分の顔を見て、心の奥がひやりとした。
(……誰だよ、これ)
口角の角度も、まぶたの緩め方も、全部“教わった通り”。
これが「自分」だと教えられて、そうするしかなくて。
気づけば、何も感じない仮面だけが残っていた。
けれど次の瞬間には、もう完璧な笑顔が貼りついていた。
「はい、すぐに向かいます」
滑らかで柔らかな声。
さっき優香に向けて見せた、素の表情などなかったかのように。
――その瞬間、仮面をかぶる音が、確かにした。
三島はわずかに頷き、その背を向けて廊下へと歩き出す。
大地はその後を静かに追う。
扉を出る直前、ほんの一瞬だけ振り返り、優香と視線がぶつかった。
その瞳には、もうさっきまでの揺らぎはなかった。
ただ、完璧に整えられた、“宅麻大地”という虚像がそこにいた。
(……さっきの人は、どこに行ったんだろう)
優香は、胸の奥に静かな痛みを抱えたまま、閉じていくドアを見つめていた。
廊下の奥からは、二人の足音だけが一定のリズムで響いている。
それはまるで、演出された舞台の幕間のようで――どこか冷たかった。
残された控室には、蛍光灯の光と、彼が残したあたたかさだけが、ぽつんと取り残されていた。