仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
第1章・Scene5 廊下の圧力
稽古場の扉を閉めると、夜の廊下はひんやりと静まり返っていた。
優香と別れたあと、大地は無意識に背筋を伸ばして歩く。
蛍光灯の白い光が床に硬質な影を落とし、靴音だけが響いた。
その静寂を破るように、背後から低い声がする。
「――さっきの控室で、随分と打ち解けてたな」
足が止まった。振り返ると、三島が立っていた。
黒いスーツの襟を整え、じっと大地を見据える瞳には、昼間の穏やかさは一切ない。
廊下の光が冷たい色を宿していた。
「……余計なことは言ってないな?」
短い問いかけに、心臓がひやりと跳ねる。
大地は視線を落とし、かすかに首を振った。
「……はい。言ってません」
三島はゆっくり歩み寄り、壁際に片手をついて大地を見下ろした。
「いいか、大地。あの女は“マネージャー”だ。お前の内側に踏み込ませる必要はない。
お前はただ――完璧な宅麻大地を見せていればいい。余計な顔を見せるな」
冷たい声が胸を締めつける。だが次の瞬間、口元が緩んだ。
「……でも、今日の笑顔は悪くなかった」
まるで別人のように柔らかな響き。
「君の笑顔で、あの子も安心したんだろう。……その調子でいけ。もっと、完璧に」
褒められたはずなのに、背筋に冷たいものが走る。
(……俺は、叱られてるのか。認められてるのか……)
混乱で頭がじわりと熱を帯びる。
「わかりました……もっと、やります」
絞り出すような声に、三島は小さく頷いた。
「いい子だ。
――忘れるな。君は宅麻大地だ。それ以外、必要ない」
その言葉を残し、三島は踵を返して去っていく。
大地は廊下の真ん中に立ち尽くした。
蛍光灯の光がやけに眩しく、足元に伸びた自分の影だけが、ひどく薄く見えた。
(……俺は……どこまで行けばいいんだろう)
胸の奥で漏らした声は、誰にも届かず、廊下の奥へと吸い込まれていった。
優香と別れたあと、大地は無意識に背筋を伸ばして歩く。
蛍光灯の白い光が床に硬質な影を落とし、靴音だけが響いた。
その静寂を破るように、背後から低い声がする。
「――さっきの控室で、随分と打ち解けてたな」
足が止まった。振り返ると、三島が立っていた。
黒いスーツの襟を整え、じっと大地を見据える瞳には、昼間の穏やかさは一切ない。
廊下の光が冷たい色を宿していた。
「……余計なことは言ってないな?」
短い問いかけに、心臓がひやりと跳ねる。
大地は視線を落とし、かすかに首を振った。
「……はい。言ってません」
三島はゆっくり歩み寄り、壁際に片手をついて大地を見下ろした。
「いいか、大地。あの女は“マネージャー”だ。お前の内側に踏み込ませる必要はない。
お前はただ――完璧な宅麻大地を見せていればいい。余計な顔を見せるな」
冷たい声が胸を締めつける。だが次の瞬間、口元が緩んだ。
「……でも、今日の笑顔は悪くなかった」
まるで別人のように柔らかな響き。
「君の笑顔で、あの子も安心したんだろう。……その調子でいけ。もっと、完璧に」
褒められたはずなのに、背筋に冷たいものが走る。
(……俺は、叱られてるのか。認められてるのか……)
混乱で頭がじわりと熱を帯びる。
「わかりました……もっと、やります」
絞り出すような声に、三島は小さく頷いた。
「いい子だ。
――忘れるな。君は宅麻大地だ。それ以外、必要ない」
その言葉を残し、三島は踵を返して去っていく。
大地は廊下の真ん中に立ち尽くした。
蛍光灯の光がやけに眩しく、足元に伸びた自分の影だけが、ひどく薄く見えた。
(……俺は……どこまで行けばいいんだろう)
胸の奥で漏らした声は、誰にも届かず、廊下の奥へと吸い込まれていった。