仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」
第1章・Scene11 優しい嘘のやりとり
夜の街を走る車の中、窓越しに街灯の光が次々と流れていく。
ハンドルを握る優香の横顔を、その淡い光が一瞬ごとに照らし出した。
後部座席には宅麻大地が座っていた。明るいブラウンの髪は街灯を受けてやわらかく輝き、衣装のまま羽織った黒のジャケットが彼をより静かに見せている。
車内は無音だった。BGMもなく、聞こえるのはエンジンの低い唸りと、夜風が窓を撫でる音だけ。
ふいに、後ろから柔らかな声がした。
「今日も、楽しかったですね」
振り返らなくてもわかる。――彼は今も、昼間と同じ完璧な笑顔を浮かべているのだと。
その想像だけで、胸の奥がざらついた。
(……また、その顔)
鏡の前で崩れた素顔が、どうしても頭を離れない。
青信号に変わり、車は静かに走り出す。
優香は一度唇を噛み、そして思わず口を開いた。
「……無理して、笑わなくてもいいですよ」
バックミラー越しに、大地の瞳が一瞬だけ揺れる。
やがて、穏やかな声が返ってきた。
「……無理なんかしてないですよ」
響きは柔らかい。けれどその奥に、薄い壁のようなものを感じた。
「笑ってるほうが楽なんです。……泣いたって、どうにもならないから」
その言葉が胸に突き刺さる。
(……それでも、本当は――誰かの前では泣きたかったんじゃないの?)
心の奥でそう呟きながらも、声にはできなかった。
言えば、彼はもっと深く仮面をかぶってしまう気がしたから。
だから、優香は小さな笑顔で応えた。
「……そうですね」
自分を守るための笑顔。
そして、彼にこれ以上“本音を否定させない”ための、小さな嘘。
それでも最後に、ほんのひと言を添えた。
「でも……私は、あなたの笑顔が好きです。無理じゃなければ……ずっと見ていたいな」
バックミラーの中で、大地が少しだけ視線を向けてくる。
その瞳に、ごくわずかな揺らぎが走ったように見えた。
車は夜の街を、静かに進んでいく。
互いに仮面をかぶったまま――それでも、そこにかすかな温もりが宿っていた。
ハンドルを握る優香の横顔を、その淡い光が一瞬ごとに照らし出した。
後部座席には宅麻大地が座っていた。明るいブラウンの髪は街灯を受けてやわらかく輝き、衣装のまま羽織った黒のジャケットが彼をより静かに見せている。
車内は無音だった。BGMもなく、聞こえるのはエンジンの低い唸りと、夜風が窓を撫でる音だけ。
ふいに、後ろから柔らかな声がした。
「今日も、楽しかったですね」
振り返らなくてもわかる。――彼は今も、昼間と同じ完璧な笑顔を浮かべているのだと。
その想像だけで、胸の奥がざらついた。
(……また、その顔)
鏡の前で崩れた素顔が、どうしても頭を離れない。
青信号に変わり、車は静かに走り出す。
優香は一度唇を噛み、そして思わず口を開いた。
「……無理して、笑わなくてもいいですよ」
バックミラー越しに、大地の瞳が一瞬だけ揺れる。
やがて、穏やかな声が返ってきた。
「……無理なんかしてないですよ」
響きは柔らかい。けれどその奥に、薄い壁のようなものを感じた。
「笑ってるほうが楽なんです。……泣いたって、どうにもならないから」
その言葉が胸に突き刺さる。
(……それでも、本当は――誰かの前では泣きたかったんじゃないの?)
心の奥でそう呟きながらも、声にはできなかった。
言えば、彼はもっと深く仮面をかぶってしまう気がしたから。
だから、優香は小さな笑顔で応えた。
「……そうですね」
自分を守るための笑顔。
そして、彼にこれ以上“本音を否定させない”ための、小さな嘘。
それでも最後に、ほんのひと言を添えた。
「でも……私は、あなたの笑顔が好きです。無理じゃなければ……ずっと見ていたいな」
バックミラーの中で、大地が少しだけ視線を向けてくる。
その瞳に、ごくわずかな揺らぎが走ったように見えた。
車は夜の街を、静かに進んでいく。
互いに仮面をかぶったまま――それでも、そこにかすかな温もりが宿っていた。