仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

第0章・Scene8 三島の怒りと歪んだ感情

「黒瀬はどうした!? 何をしているんだ!!」

 怒声が会議室に響き渡り、空気そのものが震えた。
 璃子は思わず息を呑む。三島が、こんなふうに声を荒げる姿を見たのは初めてだった。

「収録は? イベントは? どれだけの仕事が止まっていると思ってる!?
 お前が止められなかったせいで、何人の人間が迷惑を被っているか、わかっているのか!」

 その顔は真っ赤に染まり、握った拳の甲には青い血管が浮き出ている。
 額には汗が滲み、射抜くような視線が璃子に突き刺さった。

 ――言葉は“業務上の叱責”のはずだった。
 だが、その声の奥には、もっと濁った感情が確かに混ざっている。

「……私も、あの時は必死で――」

「――ああ、必死だったな。黒瀬のことだけには、な」

 その一言に、璃子の瞳がわずかに揺れた。
 視界がにじみ、胸の奥を冷たい手で締めつけられるようだった。

「俺が何を言っても、お前はあいつばかり見ていた。
 忠告しても、止めようとしても、“彼を信じてます”だと?」

 三島の口元が歪む。笑っているのか、嘲っているのか――低い笑い声が、会議室の重苦しい空気を震わせた。

「だが、その“信じていた彼”は消えた。何の説明もなく、突然にな。
 ――滑稽だよな。信じていた分だけ、裏切られた気分だろ?」

 璃子は息を詰める。
 その言葉は、自分の心の奥に隠していた“痛み”そのものだった。
 指先が震える。認めたくないのに、胸が疼いた。

「お前さ、蓮のこと……好きだったろ?」

 三島の声が一段低くなった。
 その目には、怒りではない――もっと泥のように濁った感情が宿っていた。
 璃子の背筋に、冷たいものが走る。

「……あんな男に入れ込んで、挙げ句の果てに捨てられて。笑えるよ。
 ……マネージャー失格だ。感情で仕事をするなって、何度も言っただろ?」

 机の上に、無言で一枚の紙が置かれた。
 解任通知。硬い紙が卓上を打つ音が、やけに大きく響く。

「――だから、もう終わりにしよう。お前にはもう、“彼”に関わらせない」

 その言葉に、璃子の心がざわめいた。
 “彼に関わらせない”――それはただの処分ではない。
 その裏に、何かを隠している。何かが起きている。

 その確信だけが、胸に重く残った。



 
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