愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 私、来栖(くるす) 侑那は高校卒業後大学へは進学せず、実家のお店を本格的に手伝うことに。

 オープンからずっと、お客様もそれなりに来てくれていたし、常連さんだって出来ていたから経営的にも安定していたし、従業員だって何人かいて人手は欲しい状況だったから、私は手伝うことが出来て嬉しかった。

 手伝いながら月日は流れていき、二十歳になって周りが少しずつ就職について考えているという話を聞く機会が増える中、私はどうしようかと考えていた矢先、うちのお店のすぐ近くに有名なケーキ屋さんが移転して来たことで、客足が一気に遠のいてしまう。

 初めこそそこまで影響はなかったけれど、近年加速する物価高で原材料も高騰していること、もう半年近くもろくにお客さんが来ないことで纏まった収入が得られず、作ったケーキや焼き菓子たちは無駄になり、とにかくマイナス収支が続いていた。

 これでは店を続けられないどころか生活することすらままならないので、父や母は交代で週に何日か、私は週四日程、知り合いがオーナーをしているコンビニでバイトを始めて何とか収入を得ているものの、日が経つごとに店を閉めるより他無い状態に追い込まれつつあった。

 こんな状況に両親はもう諦めていて、「そろそろ店を畳もうか」と言い始めている始末。

 だけど、私は諦められなかった。

 両親が作るお菓子たちは本当に美味しくて、私は初めて食べたショートケーキの味が、今でも胸に残っている。

 食べた瞬間の甘さと温かさを、みんなにも知ってもらいたい。

 少しでも多くの人に両親が作ったお菓子たちを届けたい。

「だから、絶対諦めない!」

 自分に言い聞かせるように呟いて、両手で頬を叩いて喝を入れた私は自宅へ戻るとすぐに自室のPCを開くと、集客の為の宣伝方法を探ったり、SNSに投稿したりと、夜のコンビニバイトまでの時間を余すこと無く使っていった。
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