愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
「お待たせ致しました」

 巴さんの元へ戻り、持って来たカップを彼の前に置くと、それを見た彼は、

「コーヒーはブラックだと言ったはずだが」

 カップを持ち上げて眉をひそめた。

「はい、いつもならそうですけど、今日はお疲れのようでしたので、少しだけミルクを」
「また勝手なことを」

 そう口にする言葉は鋭いのに、その声にはわずかな戸惑いが混じっているように感じた。

「お口に合いませんでしたか?」
「……別に、不味くはない」
「それは良かったです」
「……お前は、本当に変わった奴だ。理解出来ん」

 口では文句を言いつつも、結局はそれを飲んでくれる巴さんは素直じゃない。

 そんな素直じゃない彼を前にした私は、思わず口元を緩めてしまう。

「何が可笑しい?」
「いえ、その……」
「何だ?」
「巴様は、甘い物の口にすると、子供のように無邪気な表情を浮かべていることが多いと思いまして」
「なっ! 馬鹿なことを言うな! そんな顔はして無い!」
「あ、すみません。それは私の勘違いでしたね。それでは、お仕事のお邪魔にならないよう下がりますね」

 すっかり不貞腐れてしまった巴さんは何も答えないけれど、照れ隠しのように無造作に書類を捲る音が静かな部屋に響いていく。

 そんな音を背に受けた私は、また一つ巴さんとの距離が縮まったことを確信しながらそっと部屋を後にした。
< 20 / 61 >

この作品をシェア

pagetop