愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 その夜、勤務が終わって自室へ戻ろうとしているところに、如月さんがやって来た。

「来栖さん、少し宜しいでしょうか?」
「はい……?」

 相変わらず彼の表情からは何も読み取れず、一体何の用なのか疑問に思いながら執務室まで付いていく。

「単刀直入に言いますが、パティシエの高間さんと勤務中、楽しげに話をしていたという報告を受けましたが、それは事実で間違いありませんか?」
「え?」
「私語をするなとは言いませんが、報告によると、随分親しげだったとか……」

 その話を聞いた私の頭に真っ先に浮かんだのは巴さんの顔。

「その報告って、巴様からですか?」
「……守秘義務がございますので、私からは何とも」

 巴さんが言っていたのかを尋ねてみても、『守秘義務』と言ってはぐらかされてしまったけれど、昼間の出来事を思えば誰が報告したかなんて分かりきっている。

「親しげだなんて、とんでもないです。あくまでも同じ職場の人と話しをしただけです」
「まあ、貴方にも言い分はあるでしょうが、立場を弁えてください。私たちは皆、上澤家の人間に雇われている身。家主に逆らうことは許されない。それは分かりますね?」
「…………っ」
「それと、貴方には明日から厨房へ入ることを禁じます」
「なっ! どうしてですか!? それだと巴様へ食事やお菓子の配膳が出来ません」
「お菓子は高間さんが、料理はての空いている者に巴様の部屋の前まで運ばせますので、貴方は巴様の部屋の前でそれを受け取ってください」
「そんなっ! それでは他の方の負担が増えるだけです!」
「何を言おうと、これは決定事項です。いいですね?」
「…………」

 あまりにも理不尽な決定事項に私は怒りを覚えて気がつくと、

「分かりました、私が直接、巴様にお話しをして取り消していただきます!」
「来栖さん! 待ちなさい!」

 如月さんの制止も聞かず、私は執務室を飛び出して巴さんの部屋へ向かって行った。
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