愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 翌朝、如月さんに呼ばれた私が聞かされたのは、高間さんが辞めたという話だった。

 如月さん曰く、本人の自己都合での退職だと言っていたけれど、私は絶対に辞めさせられたんだと思い、執務室を後にするや否や巴さんの元へ駆け込んだ。

「巴様! どういうことですか? 高間さんを辞めさせるなんて!」
「……必要ないと判断した。それだけだ」
「まさか、昨日の件で!?」
「辞めさせた理由をお前に話す必要は無い」
「あります! 当事者ですもの!」

 そう口にする声が震えているのが分かる。

 だって、あんな……高間さんは何も悪くないのに辞めさせられるだなんて。

 悔しさと悲しさと、どこか切ない感情が混ざり合って胸が締めつけられる。

「巴様がそんな人だとは、思いませんでした……」

 私のその言葉に、巴さんの瞳が一瞬だけ揺らいだ気がした。

「俺は、何も間違ったことはしていない」
「間違ってます! 自分の思い通りにならなければ権力を振りかざして人を苦しめる……。そんなの、最低の人間がすることです!」

 その言葉に、私はハッとした。

(私は今、何を言ったの?)

 言ってはいけないことを口にしているのは、何となく分かっていたけれど、もう止まらなかったし、止められなかった。

「私はもう、巴様の考えにはついていけません。私も本日限りで辞めさせていただきます!」
「初日にあんなに偉そうなことを言っていたくせに、逃げ出すつもりか?」
「逃げるのとは違います。巴様のような方にお仕えしたくないから辞めるのです」

 反論した私に再度何かを言いかけた巴さんだったけれど、口を閉じて背を向け、

「なら勝手にしろ。お前のような奴は俺の方からも願い下げだ。二度と顔も見たくない」

 拒絶の言葉を投げかけて来た。

「……っ、お世話になりました。失礼します」

 別れの言葉を口にしてから部屋を出ると、ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた気がした。

 そしてその瞬間、私は自分の頬を涙が伝っているのに気づいた。

(何で、涙が?)

 この涙が何を意味するのか、私には全く分からなかった。
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