愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
「侑那ちゃん、大丈夫? 顔色、悪いよ」

 疲れ切っている時にふいに優しい声を掛けられ、胸がじんわり温かくなって何だか涙が出そうになる。

 こうして廊下で話をしているのは良くないけれど、今巴さんは出掛けているし、何より気持ちを分かってくれる誰かと話をしたい、少しくらいなら大丈夫。

 そう思って話をしていた。

「だ、大丈夫。ちょっと忙しいだけで……」
「忙しいっていうより、巴様に閉じ込められてるって噂もあるけど、本当に大丈夫なの?
「閉じ込められてる訳じゃないけど、自由は無いかな。でも大丈夫、お仕事だから」
「そっか。ならいいけど」
「うん、それじゃあ私はこれで」

 そういくらか言葉を交わしてからその場を立ち去ろうとした、次の瞬間ーー

「……楽しそうだな。随分と」

 背筋が凍りつくくらいに低い声が、真横から聞こえてきた。

 ゆっくり顔を向けると、出掛けていたはずの巴さんがそこに立っていた。

 鋭い眼差しは高間さんを一瞬で射抜き、次に私へと向けられる。

「俺がいないのを良いことに、自由にやってるんだな」

 こうなってしまった今、何を言っても信じてもらうことは出来ない。

 それを感じたのは高間さんも同じだったようで、私たちはただその場に立ち尽くし、動けずに居た。
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